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 青木昌彦 『経済システムの進化と多元性(東洋経済新報社、1995年)
 
 
 新古典派経済学やそれに支えられたアングロ・アメリカン・システムが想定する均衡の唯一性や一元的で独善的な評価基軸に対抗する比較制度分析の先導者による、数式などを使わない叙述的な入門書。

 予めお断りしておくが、本書の内容をおおよそは理解できたと思うが、細かいところで理解できなかったところもある。したがって、自分が理解した内容の要約を簡単にしておいた。

 
 
 比較制度分析とは、多様性の経済利益の源泉とその存立条件を、経済学の普遍的な分析言語で探る(p2)という学問分野である。

 そこで主眼が置かれているのは、これまでブラック・ボックスとされてきた企業内の組織における相違がマクロな経済にも大きな影響を与えるという視点である。すなわち、問題意識は以下のようにまとめられる。

各個人が企業活動に関連して収集する情報は組織内で交換され、集団的に使用される(この過程・機能を「コーディネーション」と呼ぶ)。そうしたコーディネーションの仕組みの中にどのような環境条件においても絶対的に優れた唯一無二の最適組織はあり得ない(限定合理性のため)。しかし、個人の情報処理能力の方向性の選択や組織のコーディネーションの仕組みの違いによって、変化する環境下で、企業組織がその目的追求のために全体として活用しうる情報には差が生じ、ひいては企業の生産性や競争力に差が生じる。 (pp12-13を基に若干整理した)

 このような分析視角は「制度的補完性」や「戦略的補完性」といった概念によって支えられる。ここで「補完性」とは、他の制度や他人の戦略の存在によってその制度や個人の働きが強められる(縛られる)状態のことである。

 こうした枠組みが、日米の対比を念頭におきながらコーポレート・ガバナンスやメインバンク制の存在の合理性に適用され説明されている。

 これら一連の分析の結論は次のようにまとめられる。

現場情報処理こそが生産効率を定める最も重要な要素となりつつあるが、人々とその組織の不可避の限定合理性の故にさまざまな組織形態が進化しうる。しかもいかなる型の組織形態が一経済において支配的になるかというと、それは歴史的経路と社会の制度体系に大いに依存する。 (p193)

 そして、具体的には、情報の共有と決定の共同化によって特徴付けられる日本の組織型は「水平的ヒエラルキー」で、そこで求められる人材は「文脈的技能(:特定の組織において通用する技能)」を有している人である。一方、アングロ・アメリカン・システムの組織型は「分権的ヒエラルキー」で、求められるのは「機能的技能(:どの組織でも通用する技能)」を有した人材である。
 
 
 
 さて、この本で述べられていることは、最近話題になっている二つの社会問題と密接に関連している。すなわち、アメリカ的な手法や価値観を有しているとされるライブドア・堀江社長の是非と、「ニート」というミスリードな概念によって一括されるような若年失業者やフリーターの問題(特に『「ニート」って言うな!』(光文社新書)で本田由紀によって示された解決策の是非)である。

 青木昌彦の分析によると、いわゆる「日本型」も「アメリカ型」も共に均衡状態にあるからそこから移行するのは容易ではないということになる。つまり、ホリエモン的手法は大勢を占め得ないし、技能付与的な教育と新規学卒採用の打倒は日本では経済的に非効率ということになる。ただ、思い切って言えば、そもそもここで青木昌彦によって出された分析というのは、現状を均衡として捉えて正当化しただけとも解釈しうるようなものである。その証拠に、「日本型」と「アメリカ型」に分かれる理由は初めの時点における制度配置に基づく経路依存だとするに留まっている。

 とはいえ、上記の問題を全体的に考える視点を提示しているのは間違いない。この比較制度分析からこれらの問題に関していかなる含意を引き出しうるかについての詳しい議論はあまりに困難だからここでは試みないが、今後ニュースなどを見るときなどに活用してみようとは思う。



〈前のブログでのコメント〉

色々読んでも結局直感に頼ってしまう致命的な癖を今度こそ直したいです。

ところで、『新しいマ「グ」ロ経済学』って・・・(笑)
commented by Stud.◆2FSkeT6g
posted at 2006/02/07 00:27
クルーグマンの経済入門は読みました。 以前先輩から薦められた本で「新しいマグロ経済学と経済政策」という本が良かったです。あと小泉改革のネタ本と言われる「日本経済の罠」は時事的な問題に対してはわかりやすかったです。
僕も一応基本書みたいなのは読んだんですがぜんぜんダメです。市場の失敗しか記憶してません 笑
commented by やっさん
posted at 2006/02/07 00:00
自分も最近経済学を勉強する意欲が沸いてきているところです。一体何度目なのかという感じですが・・・。

いつも、経済“学”とは言いがたい簡単すぎる内容の本を読んで終わるか、無理して粉砕するかのどちらかなので、適度なテキスト(評判の高いマンキューの)を買ってみました。とは言いつつ、『クルーグマン教授の経済入門』(日経文庫)も同時に読んでいます。こちらは訳が最高です。
commented by Stud.@Webmaster
posted at 2006/02/06 18:07
これ昔読んだ!
が全く覚えてません。理解してません。
経済学を勉強したい気持ちもあります。ちなみに○○○○経済学ではありません。
commented by やっさん
posted at 2006/02/06 17:37
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