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 所功 『皇位継承のあり方(PHP新書、2006年)
 
 
 日本法制史学者による皇室典範、女性天皇などに関する論稿をまとめたもの。したがって、皇室典範改正論議の前提となるような基本的な知識が整理されて書かれているわけではないし、内容の重複も見られる。けれど、全体を読めば基本的なことは網羅されているように思う。

 著者は、最も若い皇位継承者が40歳という現状、ならびに、一夫一婦制の下では男子を授かる確実性は低いことを重く受け止め、女性・女系天皇容認・男子優先を主張する。

 女性・女系天皇を容認する理由としては、昭和天皇の皇太子時代の決断以来、養子は禁止されていること、一般人になった旧宮家が一般人になって60年も経過していて皇族に復帰することは社会的に受け入れがたいこと、一夫多妻制の社会的・現実的な不可能性などが挙げられている。また、皇室の歴史の検討を通しての理由も挙げられている。まず、これまで男系男子を継続してきたがその半分は一夫多妻制の下、正妻以外の妻(側室)によるものであること。それから、男子のみにこだわるのは中国由来のしきたりであって古来日本には女性をも継承者とする伝統があったこと。他にも、一般から皇族に復帰した事例はあるが、その場合一般に下っていた期間が短かったこと。8世紀初頭の「大宝令」ですでに女性天皇は認められていたこと。「中継ぎ」的ではない女性天皇もいたこと、などが挙げられている

 また、男子を優先することの理由としては、女性は出産・育児などがあるために天皇としての公務をすることには困難が伴うことを挙げている。

 女性・女系天皇に反対する人たちの主張に関しても簡単ながら触れられている。有識者会議には専門家がいないという批判に対しては、有識者会議は膨大かつ精密な資料に基づいて基本的なことからしっかりとした議論をしているのは、公表されている資料や議事録を見れば分かるとしている。見習うべき事例として民間から皇族に復帰した宇多天皇の例を挙げ、その立役者である太政大臣・藤原基経を「政治家の器量」などと褒め称えている主張に対しては、藤原基経は権勢家であって恣意的に皇室を左右しただけだと反論している。また、神武天皇の遺伝子(Y1染色体)が継続して繋がっていることが重要だとする意見に対しては、当時から一般に下った元皇族の人はかなりの数にのぼるからその遺伝子は大多数の現在の日本人も継承していると指摘している。

 それから、著者はかなり多忙・激務になる皇室の公務のあり方の見直しも提起している。
 
 
 
 この本の主な主張を列挙してきたが、次に、おかしな点をいくつか指摘する。

 まず、上にも書いたとおり、男子を優先する理由として女性の出産・育児による天皇としての公務への影響を挙げているが、一般的・平均的な皇位継承の年齢を考えれば、両者の時期は重ならない。自分の価値観や希望する結論によって歪められた貧困な想像力とひ弱な思考力。

 天皇が、一般国民と異なる別格の存在であり、そのあり方を国民と同じレベルの権利・義務から論じえないこと(p46)を「自明のこと」とし、一般国民の男女同権といった観点から天皇制を論じることはできないとしている。しかし、著者は、皇室における一夫多妻制の復活が妥当でない理由を一般国民の中の規範・ルールに求めている。したがって、天皇制と一般国民との関係の捉え方があまりに恣意的。一貫した論理的思考力に難あり。

 (昭和から平成への)改元前後から国際情勢も国内状況も激しく揺れ動き、二十一世紀を迎えても難しい問題が頻発している。それにもかかわらず、私ども日本人が必ずしも著しい不安を覚えないのは、いわゆる家族的な国民性によるものかと思われる。しかも、その奥底に“国家・国民統合の象徴”として天皇がおられ、皇室があることにより、何となく安心できるからではないかと考えられる。(p7)と大真面目に書いているが、60歳を過ぎた博士号(法学博士・慶大)まで持っている大の大人が何を言っているのか。恥を知れ。こんなの、未就学女子児童が可愛がっている猫のぬいぐるみに向かって「キティちゃんのおかげで風邪が治ったよ。キティちゃん、ありがとう。」と言っているのと変わらない。

 また、現行憲法は、第一条が天皇制であって基本的人権などより前に規定されていることを重視しているが、日本国民を侮辱する行為だ。一条より前に書かれている日本国憲法前文、および、憲法第一条をしっかり読み直せ。
 
 
 
 そんな著者ではあるが、二人の娘を持つ寛仁親王(天皇の従兄弟)が女帝容認論などについて述べた論稿についてはやや厳しく批判している。特に、皇室の一夫多妻制の復活を述べているところについては手厳しい。というか、「一夫多妻制の復活」なんて言っているなんて自分は全く知らなかった。さすがに驚いた。著者が厳しいのも理解できる。その部分を引用しよう。

「昔の様に“側室”をおくという手もあります。私は大賛成ですが」云々といわれる。しかしながら、これはたんなる“雑感”とか“ブラック・ジョーク”ですますことのできない問題発言である。(中略)その(昭和天皇の)大御心を無視して、側室復活の大賛成論を主張されるのであれば、それをまず御自身で実践してみられるべきであろう。その結果、妃殿下や二人の女王(大学生)がどんなお気持ちになられるか、申すまでもあるまい。 (pp125-126)

 個人的には、皇室がここまで国民に受け入れられている最大の理由は、別世界にいながらも皇族の人たちが見せる国民に対する低姿勢な接し方や、別世界にありながら一般国民の感覚への嗅覚・共感の強さにあると思っている。こういう視点からすると、寛仁親王の上の発言は問題である。かつて、自分が子供の頃、純粋に思った「天皇家に不良が出てきたらどうするのだろう?」という疑問を思い出した。(もちろん、子供の頃に思い描いた「不良」とはまだまだ程遠いが。)

 また、妻を気遣っていわゆる「人格否定発言」をした45歳の皇太子に対する、「(発言する前に)陛下(=父親)に相談するべきだった」というその弟の苦言なんか、普通の人が言ったとしたらただの決断のできない人になってしまう。病気がちの妻を気遣って「公務の新しいあり方」まで考える夫と親に頼る人。より多くの国民が共感するのは前者であることはほぼ事実であろう。
 
 
  
 それにしても、いずれは改正しなければならないだろう皇室典範の議論を先送りにした立法府の不作為には「またか」という諦めにも似た気持ちが湧いてくる。“政治的に”あるいは“戦略的に”議論を先送りにすることが得策だったというのは分かるが、本当に皇室のことを考えているのならもっと違った態度や行動が可能だという気がするのだが。

 それから、自分の価値観こそが日本の(さらには、天皇制の)歴史的に正統な価値観だという独善的で浅はかな考えから天皇制について語るのは、それこそ「不敬」にあたる気がするのだが。どうだろうか。

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» 無題
私は男系支持社だが、あなたのように品のない中傷を文章の間に入れるから右翼は世間から馬鹿にされてしまう。批判すれども中傷せず。正しいことならば粛々と主張していけばよい。
(No Name) 2012/05/08(Tue)20:13:48 編集
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