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天童荒太 『包帯クラブ』 (ちくまプリマー新書、2006年)
『永遠の仔』、『家族狩り』の著者の最新作。どちらの作品も評判が高く、興味はあるのだけれど読んでいない。なんせ、どちらも長い。そこで、手っ取り早く読めそうな本作を読んだわけである。
話は、数人の高校生が、心に傷を負ったその場所に包帯を巻いていくことで“出血”を止めていく、そんな「包帯クラブ」の平坦ではない活動の報告。
個人的には、あまり完成度の高くない小説だと思う。
以下、やや内容にも言及しながらその理由について述べていく。
まず、登場人物たちは、「同じ傷でも人によってその痛みの程度は異なる」から、些細なものに見える傷であろうと、不合理に見える傷であろうと、どんな傷に対しても同等に尊重して接すること、包帯を巻くことを決める。
その一方で、その仲間たちで「包帯クラブ」という“グループ”を作る。
ここには、決定的な矛盾がはらんでいる。すなわち、一方では、あらゆるものを同等に肯定する開放的な相対主義を取りながら、他方では、仲間内で“グループ”を作ることで内と外とを区別する境界線を設けているのである。しかも、高校生たちはその「クラブ」の存在や活動によってこそ「孤立」を免れることができているため、彼らにとって“グループ”は重要な存在である。
特に後者のグループの排他性に関しては、主人公たちが中学生のときに作っていた「方言クラブ」に属していたメンバー間の意味の分からない方言での会話が多用されることで、グループ内だけで通用するルールが持つ排他性を読者に印象づけている。
さて、このようなよく見かけるが非常に解決し難い問題・矛盾をどのように突き抜けてくれるのかと、期待して読んだ。
このような観点からして話の中でポイントとなるのは、「包帯クラブ」がインターネットを通じて見ず知らずの人の心の傷にも包帯を巻く活動をすることの顛末と、中学生のときの「方言クラブ」のメンバーの一人が離脱・孤立することという二つである。
まず、「包帯クラブ」がより広い範囲の人たちをも巻き込もうとした活動は、人々の色々な価値観の存在の結果、共感も呼びながらも反発も生み、結局失敗に終わる。そして、彼らの普及活動は休止に追い込まれる。
また、かつての「方言クラブ」のメンバーの孤立とそこから生じる反発は、「方言クラブ」と「包帯クラブ」という二つの極めて狭い共同体のやり方や価値観によって、そのメンバーを仲間に取り込むことで解決する。あるいは、かつての「方言クラブ」時代の仲間意識を呼び覚ましたと言えるかもしれない。
つまり、この二つの話から言えるのは、結局、「包帯クラブ」というのは、仲間内だけで通用する全く一般性を持たないルールや規範によって連帯することで、その中のメンバーが孤立するのを防ぐことを目的として成り立っている集まりである。
したがって、いわゆる日本社会的、共同体主義的な原理に基づいた話である。しかも、その範囲は国や地域といったものよりも狭い。もちろん、半強制的な集団ではないが。
そこで考えるに、この小説は、特に今の若者について巷でよく言われる現象をそのまま描いただけではないかという気がするのだ。(これが現代的な現象なのか、そもそも実際には存在しない現象なのかは知らないが。)
そんなわけで、個と集団、集団の内と外、というしばしば指摘される問題を扱ってはいるが、その切り込みの深さ、鋭さ、新しさという点で特に見るべきもののない小説だと思ったわけである。
この作家の真価を知るには、やはり、過去の大作を読まなければならないようだ。
〈前のブログでのコメント〉
- 残念ながらゆいにゃんと感性があわないようですな 笑
- commented by やっさん
- posted at 2006/03/02 22:49
感性が合わないというか、自分の方がより深く話を理解しているだけなので、ゆいにゃんに色々教えてあげられそうでそんなに悪い状況ではないです(笑)
ただ、この話で大感動して涙するというのは市川由衣のピュアさを表していて微笑ましい反面、彼女も社会でバリバリ働いている二十歳なんだから・・・、という気もしないでもないです。
それにしても、今回は小説でしかも市川由衣だからまだ良いのですが、もし好きなアイドルが社会系のドンデモ本(最近だと藤原正彦『国家の品格』とか)を賞賛していたら、いかにして穏やかに説得するかというのを最近考えていたところなのです。アイドルに政治ネタはタブーなのであまりあり得ないことだとは思いますが、ブログで日常を逐一報告できる最近の状況だといつか起こりうるので、その際に速やかに対応できるようにと思っています。自分は何様なのだという感じですが(笑)- commented by Stud.◆2FSkeT6g
- posted at 2006/03/02 23:55