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 ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門(山形浩生訳/日経ビジネス人文庫、2003年)
 
 
 基本的なレベルの(マクロ)経済学を使って実際の時事的な経済問題をとても分かりやすく解説している。学問と現実とを掛け橋することに見事に成功している。非常におもしろく、かつ有益な本である。

 そして、何より山形浩生による軽い口語調の訳が画期的。クルーグマンの原文が元々軽い言葉使いで書かれているらしいが。ちなみに、自分はこの山形浩生という人をポストモダンの人かと思って食わず嫌いをしていたが、少し前にそうでないことをホームページを見て知った。今回この本を手に取ったのもそのホームページを見ていて興味を持ったからでもある。
 
 
 
 議論はクルーグマンの十八番の(?)生産性の話から始まり、所得分配、雇用・失業、インフレといった経済学の得意分野、財政赤字、保護貿易といった時事的な政策問題、最近流行のファイナンスと来て、最後に、アメリカ経済の未来のシナリオという流れである。最後に番外編として、日本がはまった「流動性の罠」についての影響力の大きい分析が載せられている。

 これを見て分かる通り、大抵の経済問題は網羅されている。しかも、主張を押し付けるのではなく、対立する見方を提示してそれぞれを実際のデータや事例などで検討するという体裁を取っているから、本当に優れた経済・経済学の包括的な入門テキストとなっている。それでいて、経済評論家やマスコミなどで流布している俗説とは異なる結論に至っていることが多いからおもしろい。例えば、貿易赤字は問題ないとか、インフレは大して大きな問題ではないとか。
 
 
 また、原書(第三版)が出版されたのは1997年で、議論・分析の対象はアメリカだから、アメリカから“輸入”されて、まさに最近の日本経済で起こっている出来事とほぼ同じような事態について説明されていたりする。例えば、見当をつけた企業の株主になって経営に口を出し企業価値・株価を高めて高値で株を売却するという村上ファンドが行っている手法の経済学的な評価についての二つの主張が出てくる。すなわち、その企業の効率性を高めているから良いという見方と、雇用や賃金のカット分を株主に分配しているだけだという(長期的な黙示の)契約の不履行・再分配という見方である。ちなみに、クルーグマンは両者の妥協的な見解を示している。この他にも、日本で最もホットな、企業乗っ取り・LBOといったことについてもそのアメリカでの事態の推移が紹介されている。
 
 
 この本には得るものがたくさんあったけれど、その中で興味を持った一つに、アメリカの連邦準備銀行の経済運営の巧みさが描かれていた章がある。それを読む限り、連銀の政策がかなり意図した通りの成果を上げている。果たして、こんな上手いことが他の国でもできている(できる)のだろうか。他の国の事例が知りたくなった。そして、もちろん日本に関しても、実質ゼロ金利の現状では無理にしても、将来の日本でそれが可能なのかどうか、興味のあるところだ。
 
 
 さて、何回か言及している通り、今、(マクロ)経済学の入門的なテキストを読み進めている。今回、この本を読んだのも、本流の経済学の勉強の副読本の役割を果たしてくれることを期待したからでもある。結果的には、経済学の基本も説明してくれていて、さらに、経済学を実際の問題に適用するイメージも得ることができ、かなり直接的な効果があった。我ながら良いタイミングで良い本を読んだものだ、と思う。

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