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戸矢哲朗 『金融ビッグバンの政治経済学』 (青木昌彦監訳、戸矢理衣奈訳/東洋経済新報社、2003年)
全体的にくどい印象だが、要は、1996~1998年に「金融ビッグバン」が生じたのは、それまで金融政治の「仕切られた」政策策定過程を支配していた二つのアクターである自民党と大蔵省が、それぞれ政権交代の可能性、政策の失敗とスキャンダルという組織存続の危機に瀕していたため、支持者や業界だけの利益ではなく、公衆の支持を追求したからである、というのが主張の概要。
これは、政府の審議会や自民党の政調会を通したこれまでの主流の政策過程(本書の言葉では「仕切られた多元主義」)に取って代わるとまではいかないが、それを補完する新しいタイプの政策過程である点が重要だとされる。
この本では基本的な分析枠組みを提示はしているが、過度の単純化、理論偏重、画一な説明を避けた、現実に即したまとめとなっている。その分、エレガントさやおもしろさはあまりないけれど、金融ビッグバンに関わる背景、過程、特徴などはよく把握できる。
ただ、問題点も多い。重要な点をいくつか指摘すれば、まず、公衆の支持が重要とする一方で、選挙を重視した合理的選択論との違いを強調しているのだが、公衆の支持と選挙とは密接不可分にほとんど同じ機能を果たしているように思える。また、組織存続をアクターの最重要の選好とし、そのために自民党と大蔵省がビッグバンを実行したとしているが、当時、自民党がそこまで政権転落の可能性があったか?、あるいは、大蔵省が組織解体の危機をどこまで認識し、どこまで嫌がり、どこまでその可能性があったのか?、明らかでない。
そして何より、著者は、政策過程における「公衆」の重要性を果敢に分析に取り入れているが、上でも少し述べたように選挙も軽視していて、その影響力が伝わるメカニズムが明示されていない。そのため、自民党議員、大蔵官僚の政策選択と公衆の支持する政策との相関関係を示しているに過ぎないようにも取れる。「なぜ公衆の選好がパラメータとして機能したのか?」についての詳細な分析が欠けているのではないだろうか。
それにしても、90年代の日本の経済・金融は色々劇的なことを経験している。バブル発生、バブル崩壊、金融ビッグバン、不良債権、金融危機、莫大な財政出動、デフレスパイラル、巨額の財政赤字、等々。現在の日本経済を理解するためには、90年代の出来事を改めて振り返ることが有益なように思える。今回この本を読んだ動機の一つはこんなところにある。