忍者ブログ
by ST25
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 長谷部恭男 『憲法とは何か(岩波新書、2006年)
 
 
 立憲主義、民主主義、権力分立、憲法改正手続、国境などに関して、憲法理論や政治思想といった学問的な観点から説明し、近年の憲法論議を批判している。

 各章とも既発表の文章が基になっている。ちなみに、各章の最後に「文献解題」が付いていて、本文中に出てきた文献の紹介がなされている。これは本文の理解が深まるし、おもしろい。

 この本は、全体的に、「憲法(典)は大して重要ではない」という憲法学者である著者の冷ややかなスタンスから書かれているような印象を受ける。

 個々の主な主張は以下の通り。

 ・憲法で、「愛国」や「国を守る責務」というときの「国」とは、国土や人々の暮らしではなく、「憲法によって構成された政治体としての国家」のことである。

 ・冷戦終結は、立憲主義(=リベラルな議会制民主主義)が共産主義に勝利したことを意味する。

 ・「憲法」と「憲法典」とは異なる。

 ・憲法の条文には、「準則(rule)」と「原理(principle)」とがある。9条は「原理」を表現したに過ぎない。

 ・国境のあり方に関する「正解」はない。

 どの主張も、議論を呼ぶような主張であって、通説となっているものとは限らない。特に冷戦や国境に関しては、憲法学者である著者の守備範囲外でもあり、本文中の説明も一冊の本の主張をほぼ踏襲するようなもので、より深くて幅広い検討がなされているとは想像しがたい。

 とはいえ、この本は、憲法学や政治思想といった学問的な視点から巷の憲法論議を意識しつつ書かれた、憲法のより深い理解を可能にする勉強になる本である。「憲法改正」を言うならこのような原理的、学問的な理解は必要不可欠だという著者の意思も読み取れる。ただ、体系的・包括的に憲法の原理を示しているわけではなく、やや断片的であるのは難点の一つである。
 
 
 
 
 ところで、全体を通して、一つ気になったのが、不用意な主張がしばしば現れることだ。

 それは特に事実認識が関わるところにおいて現れる。どういうことかと言うと、事実を見ることや、事実を認識することに対する意識が希薄なために、真に事実かどうか大した検証もせずに、直感や俗説に従って、見えるままに事物を認識し、それを真実だと信じてしまっているのだ。これは憲法学者一般に言えることであるように思える。

 先に疑問を呈した冷戦についての理解はこの問題が現れた典型的な例だろう。

 他にも、憲法と密接に関係する政治に関する理解においてこの問題がしばしば出てくる。一例として、日本政治についての「事実」認識を説明している108~109頁の計14行の記述における疑問を挙げていく。

・自民党は「整合した体系的政策の遂行を目指した政治家の集まりではない」となぜ言えるのか? 「整合した体系的政策」とは何か? ここで言う「遂行」が最終的な行政における「執行」を意味しているのなら著者の認識は間違っていると言えるのではないか?

・自民党が「派閥の連合体である」ことと、自民党が「整合した体系的政策の遂行を目指した政治家の集まりではない」こととは相反することなのか?

・自民党が「派閥の連合体」であって「整合した体系的政策の遂行を目指した政治家の集まりではない」ことが理由で、「党総裁=首相の政策は、必ずしも党全体の支持を自動的に獲得することができない」のか? 党総裁=首相の政策が自動的に支持される国や政党なんてあるのか? そんなの独裁制くらいなものではないのか?

・政府の法案が固まるまでに、「与党である自民党内部の政策決定過程をも経る必要がある」というのは、そんなに特別なことか? 議院内閣制の日本では特に。

・「自民党内部の政策決定過程をも経る必要がある」ことのために、各官僚組織が「政府と必ずしも同じ政策を支持しないさまざまな政治家や政治集団を操縦する余地が残ることになる」と言うが、官僚が省庁の政策に反対する政治家のところに赴くのは「操縦」なんていう優越的なコントロールを効かすためではなく、「何とかして説得し、支持を取り付ける」ためではないのか?

・官僚が政治家を支配しているという純粋な見方は、基本的な政治学の教科書を読む限りもはや怪しい主張であるようだが、著者はその程度のことは認識した上で言っているのか? 認識しているとするなら、その根拠は何か?

・このような官僚が与党政治家に接触することをもって、日本の官僚機構はイギリスほどには「党派政治から中立的であるとはいえない」としているが、ここで言う「党派政治から中立的」とは何を意味しているのか? 官僚が「自分たちの利益を擁護するために」与党政治家に接触する行為は、「党派政治」からは「中立的」と言えるのではないか? 官僚が特定の政党を利する行為のことを「党派政治から中立的ではない」というのではないのか?

・「官僚組織による政治過程の操作可能性は、郵政民営化をめぐる動きの中で、改めて浮き彫りになった点でもある」としているが、本当か? 小泉首相は官僚に「操作」されていたのか? 郵政民営化という超超特殊な事例を持ち出して、日本政治に関する一般論の論証に使うとは呆れる。
 
 
 以上、著者の社会科学的なセンスがかなり怪しいことがよく分かる。

 であるなら、憲法典が要請しているところ(理念)を解説するに止まっているべきだ、となりかねない。

 そして何より、著者も「巷の憲法論議」と大して変わらない。

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
最新コメント
[10/20 新免貢]
[05/08 (No Name)]
[09/09 ST25@管理人]
[09/09 (No Name)]
[07/14 ST25@管理人]
[07/04 同意見]
最新トラックバック
リンク
プロフィール
HN:
ST25
ブログ内検索
カウンター
Powered by

Copyright © [ SC School ] All rights reserved.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート and ブログアクセスアップ
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]