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小田中直樹 『フランス7つの謎』 (文春新書、2005年)
まとめて新書を片付ける【新書週間】の6冊目。
政教分離(スカーフ事件)、嫌米、マクドナルド解体運動、頻発するストライキなど、フランスにおけるホットな7つの出来事のそれが起こった原因について、フランスの歴史を参照することで解答を与えている。
語り口がとても謙虚で柔らかく、現代の事件と歴史とのつなぎ方もごくごく自然で、最後まで平和に読み進めることができる。
現代の代表的な7つの事件とフランスの歴史とをかなり自然に接合しているのだが、それにもかかわらず、フランスの現代と過去の基本的な事項が網羅されていて、この一冊でフランスという国のイメージが把握できるようになっている。読み終わったとき、ちょっと驚いた。これも歴史学者である著者の歴史を扱う柔軟な手腕と視野の広さに依っているのだろう。
もちろん、現代において世界的に注目される出来事が一つの歴史的経緯だけで説明しきれるわけがないから、著者の「騙し」の技術が上手いとも言えるわけだが。
著者はフランスと日本との比較も試みている。この比較によって見えてくる興味深い指摘がいくつもあった。「政教分離」のところでの次の指摘は特に興味深い。
「 政教分離という原則の意味は国によって異なっています。大雑把にいうと、フランスでは、「スカーフ事件」にみられるように、「宗教は政治に口を出さない」(※スカーフ事件で言えば公立学校に宗教的シンボルを持ち込まない)という側面が強調されます。これに対して、日本では「政治は宗教に口を出さない」という側面が強調されます。 」(p28)
これは、後に次のようにまとめられている。すなわち、「不寛容だが対等性を重んじるフランス」と、「不干渉だが差別的な日本」と。とてもすっきりとした説得的なまとめだ。
ただ、引用部分の理解に関して、日本の場合、総論としてはこれが正しいにしても、各論・具体的事例になるとフランス的な対応をすることがあるように思える。オウムにしても、「白装束」にしても、「一夫多妻的集団生活」にしても。これらは、むしろ「干渉して差別する」という感じかもしれないが。
このように、個々のところでは疑問もあるが、全体としては優れた読み物になっていておもしろかった。