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岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 (ちくま新書、2005年)
日本経済の基本的な事項について正統な経済学の視点から分かりやすく説明されている本。
扱われているのは、戦後復興から「失われた10年」までの日本経済史、日本的経営、産業政策、「構造改革」、日本経済の課題と経済政策といったところ。これらの中には、不良債権問題や郵政民営化などの新しい問題も含まれている。最初に言ったとおりどれも正統な経済学の視点から(少々著者の考えも入れつつ)書かれているから、日本経済と経済学の基本が併せて学べるようになっている。
これまで経済学の基本を学ぶために経済の本を何冊か読んできた。これも、興味を持った“歴史上類稀な状況に陥っている(ようである)バブル崩壊以降の日本経済”の理解および処方箋に関する自分のスタンスを定めるための準備であった。
そして、経済学の基本中の基本中の基本くらいは身に付きつつある。だから、そろそろ“本丸”である日本経済に関する本を本腰を入れて読み始めようと思い、手始めに手に取ったのがこの本である。
そんなわけであるから、日本経済に関する興味深い指摘や重要な指摘をいっぱいある中からいくつか選んでメモしておく。
「 (第一次石油ショックによって成長率は鈍化し、企業の設備投資も減った。)設備投資が減れば、そのための借金も減ります。この傾向は大企業ではいっそう顕著でした。80年代前半には、主要企業の内部資金による資金調達は55%に達し、逆に、70年代の中頃から借入金の割合は急激に低下し始め、80年代前半には16%にまで低下しました。この借入金比率の低下はその後も続き、90年代前半にはとうとう5%にまで低下してしまいます。
これは、銀行、中でも大手行の主要な貸出先だった大企業が、銀行からの借入金を大幅に減らし、銀行離れしたことを示しています。大企業は安全な貸出先でしたから、大手行は良質な借り手を失ったわけです。 」(pp62-63)
「 企業は中小企業も含めて95年頃から金余りで、銀行から借り入れなくても設備投資をまかなえる状態でしたから、銀行貸出の減少による景気後退というメカニズムは、当時の日本経済では働いていなかったと考えられます。 」(p72)
「 これまでの実証研究の多くは、「銀行の貸し渋り説」が当てはまるのは97年から98年にかけての金融危機の期間だけであり、この説によって90年代を通じた長期経済停滞を説明できないことを示しています。 」(p221)
「 平成の長期経済停滞の原因はデフレを伴った需要不足にあり、供給サイドにはありません。この場合に優先すべき経済政策は需要不足を解消するマクロ経済安定化政策です。
(中略)
供給サイドのサッチャー改革が生産性の向上、安定した経済成長に結びつくのは、90年代初めに、金融政策がインフレ目標政策を採用するようになって以降、インフレが1%~3%に維持されるとともに、失業率も低下して、マクロ経済が安定化してからなのです。すなわち、サッチャー改革の成功は、構造改革のような供給サイドの政策が成功するためには、マクロ経済の安定化が不可欠の条件であることを示しているのです。 」(pp237-238)
「 消費者物価指数は品質の向上や安売りなどの考慮が遅れるため、高めに出る傾向があります。日本の消費者物価指数については、実際よりも1%程度高めであることが知られています。したがって、消費者物価指数でみて0%インフレは、実際には、マイナス1%のデフレです。 」(p246)
「 03年からの回復の最大の原動力も輸出で、次が輸出の増加によって誘発された設備投資です。公共投資が減っている点でも、00年の回復と同じです。 」(p251)
そして、肝心の平成長期不況に対する著者の見立ては以下のように4つに分けられると思う。(それぞれが絡み合っている。)
(1)バブル期には(好況のため)建設・不動産・流通などの非製造業で借金が急増→バブル崩壊→借金返済を目指す→価格を下げて売上を伸ばそうとする→物価低下(デフレ)
(2)バブル崩壊→地価と株価が暴落(資産デフレ)→借金返済のために資産売却→さらなる資産デフレ
「このように、借金の返済を原因として、デフレ(物価の持続的下落)と資産デフレがスパイラル的に悪化することを、債務デフレといいます。」
(3)債務デフレによる不況→企業のバランス・シート悪化
「92年からの長期の経済停滞の特徴は、債務デフレ不況=バランス・シート不況」
(4)経済停滞を長期にしたのは、デフレは将来も続くという、「デフレ予想の定着」。
デフレ予想→設備投資減・雇用減・借金返済を急ぐ→経済全体の需要減
提示される処方箋は、著者がその代表格であるインフレ・ターゲット論である。すなわち、日銀による長期的かつ信用に足る「1~3%のインフレ目標」を実行に移すことである。
さて、日本経済を理解する重要文献として、偏っていると批判を受けるかもしれないが、ポール・クルーグマン『クルーグマン教授の〈ニッポン〉経済入門』、岩田規久男『デフレの経済学』をとりあえず読みたい。あとは、関連データを把握できるもの、あるいは、データをふんだんに使ったものがあれば読んでおきたい。