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若田部昌澄 『経済学者たちの闘い』 (東洋経済新報社、2003年)
過去に起こった現実の経済問題に関する論争とそれに対する著名経済学者の関わりを検討することを通して、現代の日本経済を考える視点を提供する本。もっと抽象化すれば、現実経済と経済学との相互依存関係を明らかにした本。
デフレ脱却のための経済政策論議において経済学の理論やモデルが中心的な役割を果たしているのは当然のことだが、それに加えて様々な時代や国の過去の事例がかなり重視されているのは、経済学に“お硬い”イメージを抱く人間からするとちょっと驚きであった。
この本は現代の経済政策論議における、この「歴史(過去の事例)」の部分に貢献するものである。
もちろん、扱われる事例の全てが昨今の日本のデフレ状況と直接的に結びつくわけではない。
けれど、経済学の基本の理解に役立つような過去の事例から、ホットな経済政策論議に直結する事例まで、幅広い事例が取り上げられているから、そこから得られる教訓はどれも有意義だ。
ただ、本書を通読して、“刺激”のようなものが足りない印象を持った。
それが読み手の想像力不足によるものであることは十分に考えられる。
しかし、各章の結論や教訓の引き出しが不十分なままに終わったり、引き出していてもそれらが予定調和的であったり、というところに原因の一つがあるように思えた。
それから、著者は「世間知と専門知」という概念をしばしば利用している。しかし、「専門知」が経済学だけでなく色々とたくさん存在することを考えると、この概念の使用は、社会問題に対して「誰も何も言えない」“ハイパー・タコツボ状態”を生み出すだけであって、適切ではない。
そんなわけで、あまり積極的に勧めたいと思えるような本ではなかった。