by ST25
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吉岡忍 『ある漂流者のはなし』 (ちくまプリマー新書、2005年)
2001年夏、エンジンの故障した小型船で37日間太平洋上を漂流し、奇跡的に生還した男性の話。
37日間も、どうして生き延び、その間、何を考えていたのか。それを男性の言葉を中心に伝える。
確かに、生死の境目を漂った壮絶な体験ではあるのだけど、そこで語られる内容は、実にシンプル。大海原で一人孤独に漂うという状態を感じさせるような、そんな静かさがある。
この男性には“ヒーロー”とか“奇跡”とかそんな言葉は似つかわしくない。いわば、実にありきたりで平凡な、ただの小さな人間にすぎない。
壮絶な日々の壮絶な体験を期待して読むと肩透かしを喰らう。裏表紙の「感動のドキュメント」を期待して読んでも肩透かしを喰らう。
本としては読んでもおもしろくない。
しかし、この男性が発見・救助されたのが2001年8月26日。9月11日の2週間前のことだった。また、この年の春には小泉旋風が巻き起こり、小泉純一郎が首相になっていた。
そんな激動の時代と対比して考えるとき、このおもしろ味のない小本の、地に足の着いた描写とそこで描かれる小さな一人の人間から発される、大いなる輝きに、思わずハッとする。
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