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沢木耕太郎 『危機の宰相』 (魁星出版、2006年)
当時ほとんど誰も信じなかった「所得倍増」という考えを信じ、実現していった首相・池田勇人、大蔵省のエコノミスト・下村治、宏池会事務局長・田村敏雄の3人の物語。1977年に雑誌に掲載されたものの書籍化。
「安保」という政治問題から「所得倍増」という経済問題に見事に舵を切ったことで知られる池田勇人が、いかにして「所得倍増」という考えを獲得していったのかのプロセス(とその後の顛末)が描かれているのはおもしろい。(※この過程を政治学的に描いている最近の本に、牧原出『内閣政治と「大蔵省支配」』がある。)
ただ、読み物としてはあまりおもしろさを感じなかった。
それと、一つ欠けていると思ったのは、「安定経済派」、「成長経済派(所得倍増)」それぞれの具体的な政策の内容。
これが抜けているから、彼らが実際問題として何で対立していたのか、また、「所得倍増」実現のために池田勇人が何をしたのか、が全く分からない。
この本が細かい経済学の話にまで踏み込んで書かれているだけに、逆に不思議な感じさえする。
今では、「所得倍増」が達成できたのは、それが「(当時の状況からして達成が)約束された目標」だったからというのが通説であること。
「 《私は経済成長についての計画主義者ではない。(中略)私の興味は計画にあるのではなくて、可能性の探求にある。だれかのつくった青写真に合わせて国民の活動を統制することではなく、国民の創造力に即して、その開発と解放の条件を検討することである》 」(p209)
と、「所得倍増」の理論的な支柱である下村治が述べていること。
これらを考え合わせると、著者は「所得倍増“実現”」が池田らによるものではないと薄々気付きつつも、おもしろさのために、意図的か無意識かは分からないけれど、具体的な政策の話を書くことを避けたのではないかと思えてくる。
そんなわけで、何かといまいちな本だった。
とはいえ、この著者が、浅沼稲次郎を刺殺した山口二矢を描いた『テロルの決算』(文春文庫)には興味が湧いてきた。古本屋で探してみよう。