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北岡伸一 『国連の政治力学』 (中公新書、2007年)
2004年4月から2006年9月まで、日本政府国連代表部次席代表を務めた日本政治史を専門とする東大教授が、実体験を交えながら国連の活動を説明している本。
国際政治における(主に軍事)力の反映とだけ考えていては見誤る国連の実態をヴィヴィッドに語っていて、おもしろくて有益。
国連の仕組みや実際の活動から、大使の日常、日本の役割・活動、世界レベルの国際政治のダイナミズム、国際政治のリアリズム的な現実まで、あらゆることを知ることができる。
そんな中でも特に印象づけられるのは、一国一票が原則である国連の、単純なパワーポリティクスではない、外交的な性質。
大使同士のつながりがものを言ったり、小国からいかに支持を取りつけるかが重要だったり、対立を乗り越えるアイディアを出せるかが重要だったり、会議の場に誰を出すかが重要だったり、演説の順番が重要だったり、アフリカ連合がかなりの影響力を行使していたり。
こういう場であればこそ、露骨な軍事競争ではない理念的な国際社会を目指す日本が、実質的な最重要意思決定機関である安保理の会議の場に常にいることも重要だと思わされる。
それから、外交的であることとも関係するけれど、世界各国が参加する国連の普遍性という性質も印象的。
つまり、二国間であればあり得るような強引な理由による難癖も、それを国連の場で主張することは世界中の国によって白い目で見られてしまうことを意味する。( 著者は、中国が国連の場で60年前の戦争責任等のことで日本を非難・警戒することの奇異さを強調している。それだけに、逆に、「中国の日本批判に答える」としてかなり細かいところまで踏み込んで中国の主張に反論している部分は違和感を覚える。 )
そんな国連の場の性格を反映した、著者による安保理常任理事国および日本の性格の評価はこんな感じ。
「 論点を整理し、アイディアを出し、議論を取りまとめていく能力は、イギリスが断然優れている。フランスもシャープな論点を提示して、これに次ぐ。アメリカは、外交という点ではやや直截で洗練を欠くが、ともかくパワフルなので、これも格別だろう。それ以外では、ロシアが活躍する。冷戦時代アメリカと天下を二分しただけあって、安保理の議事規則や先例にやたら詳しく、存在感がある。案件によっては、日本とも結構親しい。ただ、国際社会が紛争解決に乗り出すのに対し、内政不干渉の原則を唱えて、ブレーキをかける方向で動くことが多い。中国も基本的に同じラインだが、もう少し静かである。自国の利害と直接関係のない案件では、あまり発言しない。しかし、中国がこれから発言力を伸ばしてくることは間違いない。
(中略)
日本は、いつもやや控えめである。しかし、その発言はいつも安定しており、間違いがないことで知られている。 」(pp261-262)
もちろん、国連といえども、主権国家の集まりであって、軍事的・リアリズム的・自国中心主義的な側面が重要なのは言うまでもない。
けれど、この本を読むと、「それだけではない」側面が、国際政治や外交の議論において過小評価されていることを改めて実感する。
この本によって、日本の安保理加盟問題や国連の存在意義の議論などが、今まで以上に具体的なイメージをもって行うことが可能になった。
著者も本書のどこかで書いていたけれど、とりあえず、総合雑誌や新聞などで見られる、国連の実態を知らないだけの地に足のついていない議論が今後なくなっていけばいいなぁと思う。