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四方田犬彦 『先生とわたし』 (新潮社、2007年)
ネットの一部で評判になっている本。
「 伝説の知性・由良君美との出会いから別れまでを十数年の時を経て思索、検証する、恩師への思い溢れる長篇評論。 」(帯より)
「 かつては自明とされていた古典的教養が凋落の一途を辿り、もはやアナクロニズムと同義語と化してしまった現在、もう一度人文的教養の再統合を考えるためのモデルを創出しなければならない者にとって、(中略) ゼミの後で由良君美の研究室に成立していた、親密で真剣な解釈共同体を懐かしく思うが、ノスタルジアを超えて、かかる共同体の再構築のために腐心しなければらない 」(p233)
とはいえ、非常にノスタルジックな語り口で語られていて、「古きよき時代の」と言ったときに想い起こされる、大学の(人文系の)教養主義的な雰囲気を全篇において醸し出している。
それだけに、逆に、そういった教養主義的なものの“現代における不可能性”ばかりが意識される。
そういった圧倒的知性というものは、これからはあくまで偶然的産物として受け止めるべきなのか、それとも、学問の魅力を伝えるのに欠かせない存在として積極的に作っていこうとすべきものなのか?
教養と一口に言っても、この本で出てくるのは人文系の教養だけだけど、そもそも人文系の教養と社会科学系の教養は分けられるものなのか、密接不可分なものなのか?
現代における教養とは、具体的には何を含んで何を含まないものなのか?
等々、現実的に考え始めると難問は尽きないけど、とにもかくにも、読み物としては味があっておもしろかった。
大学にもこういう世界がかつてあった(そして一部にはおそらく今もある)ということを知るために、高校生とか人文系の大学1年生が読むと良いのではないかと思う。