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 大嶽秀夫 『小泉純一郎 ポピュリズムの研究(東洋経済新報社、2006年)
 
 
 制度ではなく、人(=小泉純一郎)が重要だという観点から小泉政権を振り返っている本。

 人(=小泉純一郎)という観点から、道路公団改革、郵政改革、自衛隊の海外(アフガン、イラク)派遣、北朝鮮による拉致問題の4つの問題の政治過程を整理している。
 
 
 制度が想定した通りに全てが動くなんてことはなく、人が重要だということくらい誰でも知ってるし、それに反対する人もいない。

 小泉純一郎が天才的な政治センスの持ち主であり、そのことによって小泉政権が(それなりに)“成功”したということは、テレビ・新聞を見聞きしているほとんどの人が思っていることだし、そういう事例をいっぱい載せている本もすでに複数出版されている。

 著者自身も、 この両者(※人と制度)は、必ずしも二律背反的ではない。そして筆者は、制度的要因を軽視するものではない (p.Ⅴ)と語っている。

 であるならば、この本の意味は一体何なんだろうか?
 
 
 この本で扱われている4つの事例が、人(=小泉)、もしくはポピュリズム、という観点から改めて整理されることで、新しい理解や以前とは異なったイメージを与えられているわけでもない。

 かといって、小泉純一郎のパーソナリティや戦略が、心理学やら脳科学やらゲーム理論やらを使って深化や体系化されているわけでもない。

 これを読んだ日本国民が得られるものは果たしてあるのだろうか?

 ――ない。

 結局この本がやっていることは、制度的な要因の説明を省いて事例をまとめ直しただけの、学部生の卒論と大して違わないレベルのことだ。

 「制度と人が二律背反ではない」と言うのなら、「 どこまでが制度によるもので、どこまでが人によるものか? 」をこそ明らかにすべきだった。
 
 
 そんなわけで、実証系政治学者の大御所による小泉政権分析ということで期待してたんだけど、精々、「緒言」と「1章」と「終章」の合計30頁強を読めば十分な、つまらない本だった。
 
 
 ところで、これで、日本政治史上に残る“成果”を残した小泉政権を理解するのに有益な文献の選別がほぼ終わり、内容的にも一通り出揃ったように思う。( ただ、メディア関係が欠落している。)

 個別の政策領域ごとの話では読んでない本も結構あるけど、「小泉政権全体についての理解」ということではこれらの本を読めば十分だと思われる。

◇有力な当事者による回顧
・飯島勲 『小泉官邸秘録』 (日本経済新聞社)
・竹中平蔵 『構造改革の真実――竹中平蔵大臣日誌』 (日本経済新聞社)

◇小泉政権の象徴的な出来事を集めた本
・読売新聞政治部 『自民党を壊した男――小泉政権一五〇〇日の真実』 (新潮社)
・読売新聞政治部 『外交を喧嘩にした男――小泉外交二〇〇〇日の真実』 (新潮社)
・大下英治 『小泉は信長か――優しさとは、無能なり』 (幻冬社文庫)

◇小泉政権の制度的理解
・竹中治堅 『首相支配――日本政治の変貌』 (中公新書)

◇前提となる日本政治の理解
・飯尾潤 『日本の統治構造』 (中公新書)
 
 
 ただ、個人的には重要だと思いつつも、(おそらく)誰も指摘していないことが一つあるから、それを記しておこう。

 すなわち、(自民)党総裁選の重要性についてだ。

 小泉が党総裁および首相に選ばれたのも、その後かなりの影響力を発揮できたのも、その元は総裁選にある。

 森首相が“密室”で選ばれたと批判される前までは、自民党の総裁選はほとんど自民党議員だけで選んでいた。

 それが、“密室”批判や首相公選論の高まりなどのために、一般党員の投票結果を重視する制度に変わった。

 そして、その結果、以前ではあり得なかった“泡沫候補”・小泉が総裁・総理に選ばれた。

 そして、小泉政権誕生以後の“内閣と党との対立”、“小泉と抵抗勢力との対立”の根源はここに発している。

 すなわち、以前であれば、党(=自民党議員)の多数派意見が総裁を決めていたものが、一般党員の意見を大幅に取り入れることで、党内(=自民党議員内)の多数派意見と実際に選ばれる総裁が異なるという事態が発生するようになったのだ。

 こうして、「“小泉”“自民党”政権」は、議院内閣制であるなら本来一元的であるべきはずの党と内閣との間に亀裂が生じ、イシューによっては(自民党議員と首相との)“二元代表”のような様相を呈するようになったのだ。

 では、だからといって、党総裁選を元通りに(ほぼ)議員だけで選ぶようにすれば良いかといえばそうでもないのが難しいところだ。

 どういうことか?

 議院内閣制、小選挙区制による二大政党制では、選挙においては党首=首相候補が重要になる。

 ということは、党首を選ぶ段階で世論(≒一般党員)の意見を聞き入れておくことは実際の選挙に直結するため、選挙戦略上、プラスになる。

 しかし、そうすると所属議員(の多数派)と党首との間で対立が生じ得ることにもなるのは、前述したとおりだ。

 果たしてこのジレンマはいかにして解消されるべきなのか?

 『日本の統治構造』(中公新書)で一元的統治システムとしての議院内閣制を明瞭に描きだし、21世紀臨調などで実際の政治改革の提言なども行っている飯尾潤にでも聞いたみたいところだ。

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