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 草柳大蔵 『斎藤隆夫 かく戦えり(文春文庫、1984年)
 
 
 1940年2月2日、第75議会における「支那事変処理方針への質問演説」(通称「反軍演説」)にて、

ただ徒(いたずら)に聖戦の美名に隠れて、国民的犠牲を閑居し、曰く国際正義、曰く同義外交、曰く共存共栄、曰く世界の平和、斯くの如き雲を掴むような文字をならべ立てて、そうして千載一遇の機会を逸し、国家百年の大計を誤るようなことがありましたならば・・・。現在の政治家は死してもその罪を滅ぼすことは出来ない。

 と、軍部が牛耳る政府を糾弾し議員除名に処された保守政治家・斎藤隆夫の生き様を、「斎藤隆夫・三大演説」を含む6つの発言へと至る時代背景を追いながら描いた評伝。

 去年、再刊されてもいる。
 
 
 斎藤隆夫は、上の引用にも表れているように、抽象的言辞を弄ぶだけの右翼・左翼とは一線を画す。

 すなわち、国際政治においては現実主義的な、国内政治においては自由民主主義的・法治主義的な価値基準に従って判断を下す。
( ※いわば、「リアリズム的リベラリズム」とでも言える。リアリズムとリベラリズムが国際政治上、対立概念だと考えられているのを避けるべく、民主党の枝野幸男が言うところの「したたかなリベラル」にも近い(?)。)

 これはつまるところ、「(抽象的・概念的まとまりとしての)“国家”のため」でもなく、「(抽象的・理論的な)“理想・空想”のため」でもなく、「(具体的に生きている)“国民たち”のため」を第一に考えていることを表している。

 そもそもの国家の存在理由からしてあまりに当然と思えるこの基準を有している政治家・言論人・国民が、現在において果たしてどれだけいるだろうか? むしろ、現在、「 国家 without 国民 」もしくは「 国民 for 国家 」という主客の転倒した思考をしている人が多くはないだろうか?
 
 
 斎藤隆夫の演説から。

近来、ややもすれば時局問題および国防問題につきましては、よくその内容を検討せずして、ただ盲目的に、無条件に政府に服従することを以て、愛国者なりと心得ている者がある。世の中の俗物はいざ知らず、われわれいやしくも憲法の委託によって国政の根本に参画する権能を与えられている者は、かくのごとき考えは少なくともわれわれの間においては通用しないのであります。 ( 斎藤隆夫「国家総動員法案に関する質問演説」、1938年2月24日、第73議会 )

今や外にあっては百万の皇軍が生死を忘れて国家の為に戦っている。のみならず既に数万の将兵は戦場の露と消えているのである。これは法律の力によるものでありましょうか。決してそうではありますまい。また内においては全国到るところに愛国運動が起っている、銃後の後援運動が起っている。これは法律の力によるものでありまするか、決してそうではありますまい。 (中略) 百の法律を作り、千の立法をなすといえども、国民の精神がここに至らなければ、断じてこの事実を見ることは出来ないのであります。然るに、この国民性に向って深き考慮を払わない。この国民に臨むに当って法律万能を夢みている。 (中略) しかも斯くのごとき重刑を以て国民に臨んで、国民の権利自由を拘束して、国民を弾圧して、国民を信用しないのみならず、かえってこれを疑うがごとき立法をなすことが、果して国民の精神を捉える所以であるか。果して国民の愛国心を鼓舞する所以であるか。果して国家総動員の実を挙げて真に国防の目的を達する所以であるか。 ( 斎藤隆夫「国家総動員法案に関する質問演説」、1938年2月24日、第73議会 )

 
 
 そんな斎藤隆夫の存在が、この本が書かれた1981年の時点でさえいまとなっては、その名前と実像を知る人はごく稀ではないか(p9)と思われていてその後も状況に変化がないのは残念な(ちょっと不思議な)気がする。

 ※ ちなみに、つい最近、斎藤隆夫による『回顧七十年』(中公文庫)が復刊された。けれど、古本屋を探せば100円かそこらで見つかりそうなもので、しかも著作権も切れてる(※青空文庫で入力作業中でもあるらしい)文庫本を1500円で売り出すなんて、ぼったくりもいいところだ。今回取り上げた本の再刊された単行本でさえ1600円なのに。誰が買うか。

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