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 藪下史郎、荒木一法編著 『スティグリッツ早稲田大学講義録』 (光文社新書、2004年)

 本書は、ノーベル賞経済学者であるコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授が今年の4月20日に早稲田大学で行った講演の全文に、同大学の教授・助教授がその講演とスティグリッツの経済学を解説した章を加えたものである。スティグリッツの講演が同大学で行われることは知っていたが、スティグリッツの『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店、2002年)を既に読んでいて、講演の内容もこの本に近いものになるだろうと考えられたため講演会には行かなかった。そして、その予想は大方当たっていた。

 スティグリッツは2001年に「非対称情報下の市場に関する研究」によってノーベル経済学賞を受賞した。また、1993~97年にはクリントン政権の大統領経済諮問委員会委員(95年からは委員長)を、1997~2000年には世界銀行・上級副総裁兼チーフエコノミストを務め、研究と現場の両方で活躍している。


 本書の内容(つまり講演)は、その筋をおおまかに追うと、グローバリゼーションの進展する世界において必要とされる国際金融機関の役割をIMFが果たしていないため、IMFの改革を提言する、というものである。批判の対象とされるのは、IMFの、新古典派的な市場原理主義一辺倒の対途上国政策や、インフレ防止に偏った政策や、非民主的で不透明な意思決定などである。また、IMFと関係の深いアメリカ財務省も批判される。これら、IMFや構造調整政策やワシントン・コンセンサスの批判は今ではかなり浸透しているが、この議論の形成におけるスティグリッツの果たした役割は非常に大きい。貧困の撲滅が平和にもつながると考えるのであれば、彼にノーベル平和賞を与えてもいいくらいかもしれない。最近のノーベル平和賞は民間非営利団体か、和平を実行した政治家のどちらかであり、経済学者に与えるのも新しくていいと思うが・・・

 それはさておき、内容についてであるが、基本的には賛同するが、一つだけ疑問点を述べておこう。それは、IMFの世界一律の自由化政策に対して、マレーシアのようにそれを拒否して資本の流入に対して適度な保護政策を選択した場合に経済危機に陥らずに済んでいる国があることから、各国の事情等をよく考慮した上で別個の対処が必要としているところである。もちろん、国の事情に合わせた個別の対処が必要であることは間違いない。しかし、その基準はどうなるのだろうか。もちろん、スティグリッツ自身の業績である「非対称情報の経済学」はその理論化の試みだろう。しかし、最初に「各国の事情に合わせる」と言い出してしまうと、各国の恣意的な判断による保護政策を招きかねない。また、マレーシアがアジア通貨危機を免れた事例は、マハティール首相の判断とスティグリッツの判断が一致した好ましい例だが、国のリーダーの判断とスティグリッツ(あるいは、スティグリッツの思惑通りに改革されたIMF)の判断とが異なる場合も出てくる可能性がある。そもそも、IMFはアメリカが支持を与えることによって存在が可能になると言う側面もある。このような政治的な観点がスティグリッツの議論では抜け落ちているのではないだろうか。解説によると、彼は学際的なアプローチを進めているとのことなので、“政治的な観点”がとりわけ重要となる国際的問題である、貧困や国際機関などの国際“経済”問題への処方箋を期待したい。

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