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菊池信輝 『財界とは何か』 (平凡社、2005年)
日経連、経団連、日本経団連、経済同友会、日本商工会議所(日商)といった経済団体を中心に財界の形成から現在までを追った本。
一貫して貫かれているスタンスは「財界の影響力は大きい」というもの。
戦前・戦中と財界は軍事政権に介入され、戦争を積極的に助ける活動を行ってしまった。そのトラウマのため、終戦から70年代くらいまでの経済が順調だった間は、政府の経済への介入を極力排し、独力で自律的に経済成長を成し遂げた。しかし、80年代に入ると、景気が悪いときには政府の支出を求めるなどかなりの影響力を発揮し、距離的にも政府への歩み寄りを図った。90年代から現在にかけて、その財界と政府との距離はますます縮まり、様々な審議会や政治献金や財界統一候補の擁立などを通してほとんど一体化の様相さえ呈している。そして、接近することで財界の意向を政府の政策に反映させようとしている。
このように、この本は、著者自身はあまり意識しているとは言いがたいが、戦後の日本における、政治・経済における官僚主導論、官僚支配論、族議員支配論、政治家支配論といった幅広く流布している見方に異議を唱える内容になっている。
ただ、これまでの通説や研究の蓄積との対話をしていないことにも表れているが、この本は学問的な本ではなく一般的な読み物であるため、「影響力」というものについての見方がかなりナイーブだったりするという問題点もある。
また、読み物である割に、筆致が生き生きとしているとは言いがたいのも弱点である。
とはいえ、大きな影響力を持っていそうであるにもかかわらず、これまであまり書かれてこなかった、財界という観点から戦後の日本の政治経済を見るという試みは有益だ。
(少なくとも)最近の日本では、「財界」や「経済界」の言うことを無批判に信用してしまう風潮がマスコミにも国民の間にもある。この本を読むと、いかに財界が無責任で、一貫性がなく、自己中心的かが分かる。
また、道路公団民営化委員長の今井敬が抵抗勢力となって委員長を辞めたのは彼が鉄鋼業界の人で道路建設を止めたくなかったからであるとか、経済同友会は先進的な企業の人が入っているため主張も先進的であるが、その分外資系企業の意向に近くなってしまっているとか、新日鉄からの日本経団連会長就任がなくなったから談合防止のための独禁法強化が可能になるとか、この本は実践的な財界の見方をも提供してくれている。
ちなみに、個人的に財界のおかしさが一番表れているのは、日本経団連によるマニフェストの独自の評価に基づいた政治献金の斡旋だと思う。なぜなら、財界のトップである日本経団連会長が経済財政諮問会議のメンバーとして小泉自民党政権の中枢に入っているのだから、財界が自民党と民主党のマニフェストを「客観的に」評価できるわけがない。まさに、評価する側と評価される側が一体化しているわけだ。
小泉首相が大物財界人に言ったとされる言葉に賛同する。
「商売人には政治のことは分からない」(p307)