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 V.E.フランクル著『夜と霧』(霜山徳爾訳、みすず書房)を読んだ。本書ではその原題が示すように第二次大戦下ドイツの「強制収容所における一心理学者の体験」が述べられている。普通では想像し難い、限界状況における人間の姿が、心理学者である筆者の繊細かつ透徹した視点によって静かに叙述されることで、活き活きと、しかし、暗澹と描かれるのである。

 もちろん本書は、本書のカバー裏面に載っている短評のように、厳酷な状況下で現れる、人間の極限悪、冷徹さ、醜さ、あるいは他方、人間の高貴さ、強さ、善良さ、の両者が存在していたこと、特に後者が存在していたことへの感動こそが第一義的な意味であろう。しかし、ここではもう一つの読み方――それは極めて現代的である――を提示したいと思う。

 それはすなわち、人生論(あるいは現代人の生き方)として読むというものである。
 
 リベラリズム思想を背景として個人を一個の自由な主体として尊重する現代では、「人は何のために生きるのか?」という問いに対する模範解答は存在しないことが論理必然的に当然のこととなる。そこでは、“物語”に頼る生き方は終焉したとするクールな帰結に至らざるを得ない。そうして、現代の人生哲学は「今さえ楽しければよい」となる。このような現代では3通りの人間が出てくる。一つは、現代の潮流となった人生哲学を内面化し、それに従って生きる人々である。(=ポスト・モダン的)二つ目は「今さえ楽しければ」と開き直れずに、人生の意味(“物語”)を探し求めようと悩み苦しむ人々である。そして、最後は、「前現代」的な生き方、つまり、自分なりの人生の意味を信じて生きる人々である。(=モダン的)

 以上のように分類した上で、本書が現代人にとっての有益な人生論となる理由を述べていく。それは現代と強制収容所という両者の、状況の同質性と条件の異質性に求められる。現代において人生の社会的な意味が消失したように、強制収容所でも人生の、更には人間(としての自己)の意味が剥奪される。ここから現代は「今を楽しく」となるが、強制収容所では感情も剥奪される(正確には消さざるを得ない)ため、今を楽しむことができない。ここで、現代的(ポストモダン的)に生きるための、普通当然のこととされる一つの重要な前提が浮かび上がる。つまり、理性ではなく感性が全面的に働く、今を楽しめるものが見つからなければならないということである。これがない場合、ポストモダン的な人生観では、楽しくないから生きる意味はない(!)という結論になる。しかし、本書の著者が経験したところによると、強制収容所で感情がほとんど消え去り、楽しくなく無感動でも、理性の働きによって人生に(あるいは自己に)意味を見出すことで生き抜くことができるのである。もちろん、本書で述べられる生き抜く術は“意味”を見出すことだけではないが、それ以外の方法も同様の状況への対処という意味では現代においても有効であることに変わりはない。こうして、同書の現代の人生論的意義(それは現代人の3類型のどれにとっても内容は異なるが意義がある)が明らかになった。

 さて、この文章で本書の引用を控えたのは、著者が活き活きと描いた強制収容所の臨場感を消したくなかったことと、各人が持つ多様な人生論の観点からの読み込みという多元的な営みを単次元化したくなかったことの二つの理由からである。是非、この二つの観点から各々が同書を味わっていただきたいと思う。

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