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田中弥生 『NPOが自立する日――行政の下請け化に未来はない』 (日本評論社、2006年)
収入や活動のほとんどを行政からの委託事業や補助金が占める、「行政の下請け化」しているNPOが多い現状を明らかにした上で、改めてNPOのあり方を問い直している本。
内容を少し詳しく言えば次のようになる。
まず、関係者へのヒアリングやアンケート調査(ある程度の大きさをもつ団体が対象)をもとに、NPOを「民間資金型」(:民間からの寄付や助成金が収入の8割以上)、「公的資金型」(:行政からの委託や補助金が8割以上)、「中間型」の3つに分けている。
そして、「公的資金型」の団体は、「行政の下請け」という従属的で弱い立場にならざるをえず、「自立的な公の担い手」という当初のNPOの理念から逸脱していると指摘する。
その上で、3つの観点からNPOのあるべき姿を示している。
すなわち、第一に、似た状況に直面しながらも対照的な対応を取ったアメリカとイギリスの経験を比較し、行政とNPOとの健全な協働というイギリスが採った方向を目指すべきだとしている。
第二に、NPOを取り巻く法制度を会社法を参考に“ガバナンス”と“独立性”という観点から検討し、行政からの独立性を担保するためにもガバナンスの強化の重要性を訴えている。
第三に、ドラッカーの成果重視マネジメントの方法を紹介し、使命を基礎にした前向きな自己検証を勧めている。
以上が、この本の概要である。
3点ほど問題点を指摘する。
まず、著者自身も述べているように、「民間資金型」はほぼ開発系NPO・NGOに該当し、「公的資金型」は介護保険制度の創設によって増えた福祉系NPOにほぼ当てはまる。
であるならば、「行政の下請け化」の問題は、福祉系NPOに絞り、福祉系NPOの特質に沿って検討すべきだったのではないだろうか?
実際、この本では、前半で析出した「行政の下請け化」の問題を解決する具体的な案が示されていない。後半で述べられているのは、NPO一般に当てはまる理念的な話である。分析の焦点が前半と後半でずれているとも言える。
次に、分析の方法に関することを指摘すると、著者たちが行ったアンケート調査では、「民間資金型」が34団体、「中間型」が199団体、「公的資金型」が63団体と、「公的資金型」は全体の2割ほどであるに過ぎない。
だからといって「行政の下請け化」という問題提起が意味がないとは言えないと思うけれど、本の書き方として若干のずるさを感じる。
最後は、著者に限らずマスコミなどでも見られる問題だが、NPOという言葉の使い方の問題である。
NPOという言葉は、NPO法制定の前と後とでそこに含まれる意味が違っていることを認識しなければならない。
すなわち、NPO法制定以前は、NPOと言うと“成果を上げている健全な団体”のことを指していた。
だが、NPO法制定後はNPOと言うと“NPO法人”を指すに過ぎず、NPO法が法人格取得の要件をかなり緩くしたことを考えると、法制定後のNPO(つまりNPO法人)という言葉に規範的な意味を含めて考えるべきではない。
この二つの言葉の混乱は、過去のNPOのイメージのままにNPO法人に過度の期待を抱かせたり、一つのNPO法人のスキャンダルを従来イメージされていたNPOの問題と認識させたりという問題を生じさせている。
この本でも、従来の法制定以前のNPOのイメージからNPO法人(の総体や制度)を評価するという混乱が見られる。
さて、以上3つの問題を指摘したが、これらを好意的に解釈すれば、まだ「行政の下請け化」の問題が(全体の2割と)浅く、NPO法制定以前のNPOの良いイメージが残っているうちに、NPOのあるべき姿を提示したとも言える。
こう考えれば、意義のある本だとは思う。