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by ST25
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 立松和平 『光の雨』 (新潮文庫、2001年)

 本書は、内部で14人の同志が殺された、実際の連合赤軍事件を元に小説化されたフィクションである。

 設定は、事件から60年がたち80歳になった主要メンバーの一人である玉井潔が、カップルの若者に当時のことを語るというものだ。そして、その際には殺された者も含む他のメンバーが玉井に乗り移って語っていく。ここに、筆者の意図がいくつか込められているように思われる。簡単に列挙すると、60年間生き延びた者の内的葛藤(あるいは殺した者との対話)、生き延びた者としての歴史の継承、当時と今との時代状況の差異と一致などである。これらはこれらで興味を惹く点ではあるが、以下では、革命を目指す若者たちに関する重要な一つの問いについて考察していく。なお、本書で主に対象とされているのは「山岳拠点」での生活である。したがって、それ以前の学生運動や浅間山荘事件はプロローグやエピローグとして簡単に述べられるに留まっている。

 まずは全体の流れから。
 暴力装置である権力を倒す革命のためには武器を手に入れなければならない、という考えから彼らは銃砲店を襲撃して銃を手に入れる。しかし、革命のための銃は「崇拝の対象としての神のよう」になって、「銃を守るために全身全霊を打ち込まねばならなくなり、逃亡生活を余儀なくされ」てしまう。そうして、「革命戦士」になるべく、あるいは革命の際の山岳拠点として、山小屋にこもることになる。そして、そこで総括の名のもとに10人以上が殺されたのだ。なお、以下の内容はあくまで小説から考えられることであって、(実際に起きた事実をよく知らないため)実際の事件においても妥当するかは分からない。


 さて、「そもそも、そこまで彼らを駆り立てたものは一体何だったのか?」この問いこそが最大にして唯一のテーマであろう。

 結論から先に述べれば、結局のところ、彼らの行動原理は序列化された3つの選好によって理解できると思われる。すなわち、①生への意志(執着) ②異性への感情 ③抽象的概念としての革命への“憧れ”の3つである。革命を除けばあまりに平凡な人間である。しかも、革命とは言ってもそのプライオリティーは所詮3番目である。
 
 それぞれの選好がどのように現れたかについて簡単に例を述べておこう。まず、「生への意志」は、自己保存のために同志を殺すというところに端的に現れている。それは、常に自分が殺されるかもしれない極限状況がより明確に現してくれる。次に、「異性への感情」は、特に女性兵士において明らかだ。真の革命戦士になるためには性という旧弊は乗り越えなければならないとされる。そして、それを率先して実践し、実践させようとする中央委員会の指導的立場の女性メンバーは、女性兵士に対して特に厳しく指導する。しかし、そこに最も性を意識していることが明らかになる。3つ目に関しては以下で別に論じられる。

 さて、このような利己的で普通の人間を凄惨な事件へと導いたのは、①と②の選好の存在を前提とした上での③の選好の特質だと思われる。③の「抽象的概念としての革命への“憧れ”」からは2つの特徴が見て取れる。一つは彼らが目指した「革命」が抽象的概念に過ぎなかったこと。もう一つは革命があくまで「憧れ」に過ぎなかったこと、である。これらがどのように事件へと至るかというと以下のようになる。

 憧れを抱く夢や理想を実現するために多少の苦労が伴うことは彼らにも認識できており、その覚悟もしていた。しかし、その夢は抽象的で内実の無いものであったため、向かうべきゴールが元々存在していなかった。それでも彼らは一歩を踏み出してしまった。そうすると、苦痛の覚悟もある彼らはゴールのない道を彷徨いながら進むしかなくなる。しかもその過程で個人は、その都度恣意的に描かれる理想的行動を求められるのだ。そうして悲劇が生まれた。



 本書を読み進めているとき恐怖心を感じた。それは、彼らが、行き先も無いままにあまりに危険な航海に旅立ってしまい、“死”以外に逃げ道のない究極的に追い込まれたという彼らの状況に、自分の心情を投影したからであろう。雪の積もる山奥の山小屋というシチュエーションもまたその情感を効果的に高めている。

 公共的な大きな理想を掲げていても付いてまわる利己的な自己の強さや、手段の目的化や、理想を実現する主体の存在しにくさ等々、現代においても本書から得られる教訓は多いように思われる。しかし、その教訓を引き出すためには自己に対して謙虚になる必要がありそうだ。なぜなら、彼らのしたことは理想を追求しようとする人ならば、少なからず行なうことであるからだ。

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