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伊坂幸太郎 『魔王』 (講談社文庫、2008年)
伊坂幸太郎の小説。 以前読んだライトなミステリー『陽気なギャングが地球を回す』とは打って変わって、政治を題材にした小説。
社会に広がる停滞や無気力を打ち破ってくれそうな一人のカリスマ指導者の登場に狂喜する国民たち。 その空気や奔流に危機感を覚え一人立ち向かおうとする、超能力は持っているがちっぽけな男。 高揚する国民たちと焦る男。 果たしてその勝負の行方は!?というような話。
「解説」で斎藤美奈子は小泉首相の郵政選挙より前の2004年に発表されていて予言的だと書いているけれど、2001年の小泉が自民党総裁になったときも国民的な盛り上がり( 「自民党をぶっ潰す」とか「抵抗勢力」とかのとき )はあったから、それを意識して書いているのは間違いない。
ただ、親米の小泉に対して反米で盛り上がっていたり、犬養という名の首相が何度も右翼に襲撃されていたりと、2001年の政治状況をそのまま描いているわけではない。
だけど、いずれにせよ、あの頃および郵政選挙の頃の自分や日本社会の状況について内省を迫る作品であることは間違いない。
というのは、かなり希望的観測であって、それでも「自分とは関係ないこと」としてスルーしてしまう人が多いのが現実である気がするけれど。
そして、それは著者(伊坂)本人としては敗北感を感じる気がするけれど。 話の中ではファッショな空気や改憲で盛り上がる国民たちに対して批判的な考察がしばしば出てくるから。
それから、一つ興味深いと思ったのが、カリスマに熱狂する国民たちに立ち向かう主人公が持っている超能力。 これは、自分が何かを言わせようと念じるとその人が本当に自分が念じたままを言うという能力。
これはカリスマ指導者に熱狂する国民一人一人が行っていることに近いように思える。 つまり、不満や鬱屈感を晴らすために普通なら言えないような過激なことをカリスマ指導者を通じて言う( or に言わせる or に言ってもらう )という状況に。
政治では、一人が念じるだけでは実現しない。 それが圧倒的多数になった時、その念じた内容はカリスマ指導者(独裁者)を通じて実現することになる。