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by ST25
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 鷲田小彌太 『夕張問題(祥伝社新書、2007年)
 
 
 財政破綻した夕張市の現状・歴史・これからについて、同じ北海道の田舎に住む著者が、優しさと冷酷さを交えて簡単に分析・展望した本。

 主な主張はこんなところ。

・批判の多い再建計画は、前年度と比べると驚くような数字が並んでいるけど、あくまで同規模の自治体の平均的なレベルに落とすにすぎない。

・炭鉱がなくなった後、市が主導して観光事業を行ったことが、問題を深刻化するとともに、市民の行政への寄生意識を生んだ。

・行政に頼らずに自力で作り上げた夕張メロンの品質やブランド力はすごい。

・現に暮らしている人たちが快適に生活できるという観点から、農業と高齢者の就業を重視した共同体を作るべき。
 
 
 詳細な分析とか緻密な将来の再建案とかは出てこないけど、テレビなどで歪められた夕張問題および夕張市の全体像やイメージを把握するには手軽でいい。
 
 
 
 ところで、夕張の問題は民主主義的・政治制度的にも重大な問題を提起しているように思える。

 夕張の問題は、住民の側からすれば、今となってみると、問題がこんなに深刻になって財政破綻に至ってしまう前に、色々と手を講じさせ(てみ)るべきであった、ということになるだろう。

 そして、それは本来、選挙(や選挙の存在からくる圧力)を通じて、行政の長たる市長や行政の監視役たる市議会議員に伝えられるべきであった。

 しかし、それは、無風選挙のためか、議会のオール与党体制( 田舎だと全員自民党で野党が存在しなかったりする )のためか、実際のところは分からないけれど、( 政治学者が考えるのとは違って)機能しなかった。

 この地方自治体における選挙という民主的な制度の(実質的な)機能不全はけっこうどこでもあり得ることではないだろうか? ( 首長にとっての野党が強すぎると長野県議会みたいなgridlock状態になりかねないというのもある。)

 しかしながら、不利益を被る可能性がある当の市民はといえば、夕張市の説明集会やインタビューで“お客様意識”丸出しの発言をしている市民がしばしば出てくることに典型的なように、主権者(特に自治体の)としての意識が薄い人が多いと言わざるを得ない。

 けれど、夕張の問題で考えれば、現実問題として、普段から一般市民が市の財政状態をチェックすることは、技術的・能力的にも、( どっかの誰かがやれば済むことはあえて自分がやろうとは思わないという )集合行為問題の存在からしても、難しい。

 選挙という有権者と執政者との相互作用の機能不全、有権者の希薄な当事者意識、市民が市の財政をチェックすることの現実的な困難さ、という3つの現状から考えるに、市民は、( 今回の夕張市のように急に財政再建団体になることを避けるために、)事前に“予防的な制度”を作っておく必要があるのではないだろうか? (この3つの条件が揃うのは主に地方部だろう。)

 すなわち、「予防的な制度」とは、財政問題で考えるなら、例えば、財政状態が事前に決められたある一定のボーダーライン以上に悪化した場合に、市長や議会が速やかにその事実を市民に( アリバイ的にならないように新聞広告を使うなどして )伝えることを定めた条例である。

 細かいこととしては、ボーダーラインは複数の段階の設定が可能だろうし、その段階に応じて市民への通知手段を変えることもできるだろう。また、実効力を持たせるために、それを行わなかった場合の責任者(市長)や関係者への処罰を設けることも必要だろう。

 このような制度があれば、普段は平穏に暮らしながら、いざという時は、問題の状況とその深刻度を回復不能に至る以前に簡単に知ることができる。

 ここで挙げたのはあくまで一例にすぎない。

 地方自治体は、国政と違ってマスコミによる監視が行き届かないだけに、市民の側が自己防衛として、重要な問題に対して、いわゆる「火災報知機」を公的な制度として仕掛けておくことは執政者(政治家・役人)へのコントロール手段として有効である。( 「火災報知機」は直接作動しなくてもその存在が執政者たちへのプレッシャーになる。 )

 急に財政破綻を知らされ、急に行政サービスの削減と自己負担の増加を迫られないために、健全な財政を保持するという経済的な努力以外にも、政治制度的にできることもあると思うのである。

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