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蒲島郁夫、竹下俊郎、芹川洋一 『メディアと政治』(有斐閣アルマ、2007年)
メディアと政治の関係についての色々な理論・視点を網羅しているテキスト。
ところどころで、実際の政治の出来事やデータを用いて理論の適用(実証)も行っている。また、日経新聞の編集局長が著者に名を連ね、ニュースや新聞ができるまでを3つの章を割いて説明しているのはユニーク。
総じて、「有斐閣アルマ」らしい優れた入門書。
そんなわけで、この本を読むと、政治におけるメディアの影響力や役割を考える際の多角的な切り口を獲得することができる。
「切り口」をいくつか挙げてみると、補強効果、フレーミング効果、沈黙の螺旋、培養理論、属性型議題設定など、いかにも学術用語っぽい単語が並ぶ。
だけど、実際のところ、これらの理論や視点が意味するところは、ちょっとメディアと政治の関係について考えたことのある人ならば思いつくであろう考え・視点の域を出るものではない。
だからこそ、重要なのは、お互いに相入れなかったりする多様な理論間での比較検討などの実証になる。
けれど、この本でなされている実証は理論の紹介という目的のための簡単なものに過ぎず、理論間での比較といった本格的な検証結果の紹介まではされていない。
この点は、入門書だからやむを得ないとはいえ、「で、結局どれが正しいの?」という不満が残る点だとも言えるし、逆に、更なる学習への導入として成功しているとも言える。
いずれにしても、これがこのテキストの内容とその限界である。
本全体の紹介に関してはこれくらいにして、一つ内容で気になったことがあったからそのことについて少々書いていく。
それは、この本では、「メディアから政治や国民への影響」と、「政治からメディアへの影響」については色々な理論やその実証が紹介されている。
だけど、「国民からメディアへの影響」については、各章の最後にまとめ的に述べられている程度で、本格的な研究は紹介されていない。
個人的には、メディアがどのように報道するかは多数の国民の意向に依っていると思っている。同じ閣僚の不祥事であっても小泉内閣と安倍内閣とで取り上げ方が異なったりするのは、多くの国民が「小泉内閣は倒すまではしたくない」と思っている場合に不祥事に対するメディアの追及も弱くなるからだと思う。
もちろん、メディアが国民の多数派を形成するという側面を否定するわけではないけれど、国民からメディアという方向性の方が影響力は大きいのではないかと思っている。
そして、この「国民からの影響」というものを、この本では随所にまとめ的に述べているだけに、その研究について触れられていないことが気になった。
他にも、小泉政権に衝撃を受けすぎなところとか、気になったところはあるけど、優れた入門書であることに変わりはない。