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 菊池正史 『「影の総理」と呼ばれた男――野中広務 権力闘争の論理(講談社現代新書、2018年)

 

 昨年、92歳で亡くなった政治家・野中広務の評伝。その時々の政治情勢を描くのにも多くの紙幅を割いている。そのため、野中広務にばかり焦点を当てているというより、「野中広務を通して戦後政治を見る」という趣がある。

 野中広務の経歴を見ると、平成までを含めた戦後日本が凝縮されているような感さえ受ける。

 戦争に参加し、敗戦を知った後は自決をしようと決心する。(本書にも出てくる、自決を思いとどまったエピソードは感動的だ。) そして、会社勤めを経て地方での青年団活動で頭角を現す。その手腕が買われ地方政治へ進出。まだまだ色濃く残っていた部落差別や部落が貪る既得権益と戦う。また、冷戦の対立構造を反映した革新・京都府政では共産党と戦う。その間、田中角栄、竹下登と親交を深め、58歳で国政に転じる。遅咲きの中央政界進出にもかかわらず、その忍耐力や交渉力で権力の階段を上っていく。冷戦終結と時を同じくしてやってきた55年体制の終焉と自民党の下野も経験する。その際は社会党との連立を実現した与党復活の立役者にもなる。その後は、「ポスト冷戦」の政治を反映するかのような(あるいは、小選挙区制導入の必然か)権力の一極集中時代に突入する。すなわち、小泉劇場だ。そこでは抵抗勢力として国民の敵として祭り上げられ政治の表舞台から立ち去る。

 戦争を憎み、差別と闘い、自由(資本主義)を擁護し、感情的にならず粘り強く討議できる。それが自らの実体験によって裏打ちされている。そのため、現実離れした抽象的な理想論を振りかざすこともない。

 本書で語られる二之湯参議院議員の野中評。

 野中さんの魅力は、人の心を打つ言葉にあった。それは単なる雄弁ではなくて、長い苦労を重ねた人生から、心の奥底からほとばしるようなものだ。決して論理的ではないが、心に響く言葉だった。p132)

 本来、政治とは異なる意見の続出する闘技場で皆に関わる事項を決定する営みだ。となれば、誰か(「独裁者」と呼ぼうが「カリスマ」と呼ぼうが)がずばずば決めていくべきであるようなものではない。

 また、自由を基調とする現代社会において、政治の役割は強者というより弱者にその軸を据えるべきなはずだ。

 そういう観点で見るならば、多くの世間のイメージとは裏腹に野中広務は皆が理想とする政治家像に近い。「庶民の味方」としてドラマの主人公になっても不思議でないような政治家だ。

 かつて秘書を務めていた山田広郷が野中を語るところだ。

 「愛のない社会は暗黒であり、汗のない社会は堕落である」
  この言葉を聞いた時の衝撃は、今も胸を貫いているという。
  「どんなに立派に天下国家を語っても、事情を抱えて困っている人、社会的弱者に対する愛情がなければ、国民のための政治ではない。そして、努力して結果を出したものが、正当に評価される社会にこそ活力が生まれる。そう考えていたんだと思う。国鉄時代も、政治の世界でも、嫉妬され、様々に足を引っ張られた。努力しないものが、した者を嫉妬し邪魔することは、まさに愚かであり堕落であるということを訴えたかったのでしょう。」p141)


 野中広務という政治家の存在を通して見えてくる現代日本の問題点は、「時代が変わった」の一言で済ませられないものばかりだと思うのだ。



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