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 猪瀬直樹 『道路の権力――道路公団民営化の攻防1000日 (文春文庫、2006年)
 
 
 特殊法人のスペシャリストにして道路公団改革の当事者になった著者による息詰まるドキュメント。「事実は小説より奇なり」と思わせる秀逸な読み物となっている。改革派、嫌官僚派、民主主義者、必読。

 舞台は、石原伸晃行革相の私的機関である行革断行評議会と内閣に設置された道路公団民営化委員会。主な登場人物(アクター)は、民営化委員会メンバー7人、官僚、道路公団職員、自民党道路族議員、小泉首相、石原行革相、各種マスコミ。

 物語は、会議の議事の様子を中心的アリーナに据え、各アクターの思惑と政治的な動きが克明に描かれている。一部には著者による推測も含まれている。

 著者のスタンスは、データと論理を共有することで一つずつ「ファクツ・ファインディング(Facts Finding)」をしていき、最終的には「意見集約」を行うこと。データを基にしながら、押すところでは押すが、自分が引くべきところでは引くという、民主主義に関して非常に現実的な理解をしている。過去の「闘争」経験によって得てきたと思われるこの一級の政治センス、民主主義センス、議論倫理に、経営感覚が加わり、これらが、逆にそれらを理解していない(非民主主義的な)他のアクターたちとの間に軋轢を生じさせてしまっている。

 酷いアクターとは、データを出さない官僚、データを改ざんする官僚、データを希望的観測で作成する官僚、データを会議寸前に渡す官僚、何でも国民負担=税金で解決しようとする官僚、妥協を知らない今井敬委員長、リーダシップを発揮しない石原大臣、力づくで主張を通そうとする族議員、等々。

 1990年代の官僚バッシングを経て少しはましになったかと期待していたのだが、姑息な官僚たちが21世紀になっても依然として健在であることを思い知らされた。やはり官僚は信頼できない。感情論ではなく経済学風に言えば、そもそもまともに仕事をするようにインセンティブが設計されていないのだから当然だ。

 ただ、「84.18%を四捨五入して86%」とするような仕事に高学歴の人がわざわざ就いてくれている状況には、最近ではそうではなくなりつつあるようだが、感謝したい。これは国民からしたら「儲けもの」だ。
 
 
 それにしても、道路公団改革なんて、ほとんどの国民が「改革すべき」ということでコンセンサスを得られる話である。そんな常識的なことを行うのでさえこれだけ大変なことに驚く。小泉首相が国民から見ると瑣末に思える改革群を自画自賛するのも頷ける。が、そんなんでは、もっと大きな改革は実行不可能ということになってしまうがそれでも良いのかという疑問もある。
 
 
 
 ところで、「おもしろかった」と思いながらこの本のAmazonのレビューを見たら、櫻井よしこの熱狂的なシンパなどから激しく批判されていて驚いた。自分は特に猪瀬直樹のファンというわけでもないし、まだ猪瀬直樹を信頼しているわけでもないから、櫻井よしこの『権力の道化』(新潮社)も確認のため読んでみようと思った。ただ、猪瀬直樹によると、櫻井よしこは雑誌の論文の中で民営化委員会の議事録を恣意的に抜き出してそれを勝手にくっつけて委員会を批判していると反論されていた。ホームページで委員会の議事録を確認したところ、確かに猪瀬直樹の言うとおりだった。櫻井よしこの分が悪い気がするが・・・。
 
 
 
 ただ、いずれにしても、この本は民主主義のリアリティを描いた傑作だ。民主主義国の日本だが、選挙以外に民主主義を体験したことのある国民というのは意外に少ないと思っている。確かに、子供時代の学級会や企業の会議はそれに近いかもしれないが、予定調和だったり、身分が平等でなかったりといった点で異なるし、何より、「公」のことを議論していない点で全く異なっている。異なる主張を持った人たちが国民全体に関わることについて真剣に議論して最終的には一つの結論を出すという過程を描いたこの本は、まさに真の民主主義の過程を教えてくれる。そして、民主主義の難しさをも教えてくれている。

 そんなわけで、20歳以上の日本国民、必読。

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