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by ST25
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 日本にこんな本、あるいは、こんなジャーナリストは存在しないのではないか。

 先日ボブ・ウッドワード著『攻撃計画』(伏見威蕃訳、日本経済新聞社)を読んだ。同書はイラク戦争開戦までの16ヵ月間のアメリカ・ブッシュ政権の戦争準備、外交、秘密工作といった内幕についての生々しいドキュメントである。大統領や閣僚へのインタビュー、国家安全保障会議の議論、CIAのイラクでの秘密工作など、重要だが知ることが困難な内容も含まれており、100%真実ではないとしても、かなりの程度信憑性が高いと思わせるほど細部に渡って記述がなされている。興味を惹かれる点の一つ一つが重要かつ奥深いために、それぞれを詳細に論じていくと膨大な量になってしまうので、以下ではいくつかの点について箇条書き的に簡単に触れていこうと思う。

 まず、情報や知識としておもしろいものを挙げておこう。1つ目は「悪の枢軸」発言が誕生した経緯についてである。そこでは、「悪の枢軸」として挙げられた3ヵ国のうちイランと北朝鮮は言葉に合わせて追加的に加えられたものであることが語られている。(p115~)そして、日本では中立的な機関として捉えられることが多い国連監視検証査察委員会のブリックス委員長について、戦争に否定的な思想を持っており査察の情報を全て報告していないということが述べられている。(p310)さらに、CIAが9.11を防げなかったことの影響でイラクの脅威について過剰に報告していたことも指摘されている。(p569)これらの、情報的な事実は過去を評価したり、未来を構想したりする際に相当大きく寄与するものである。

 次に、同書について一つ不満な点を述べておく。それは、ブッシュ大統領のイラク攻撃(あるいはフセイン打倒)を実行するという選好(信念)が既にあるものとして前提とされた上で話が始まっている点である。なぜ「イラク」を攻撃するのかという問いは最も重要なものだが、同書でも依然明確になっていない。もちろん、攻撃の(表向きの)決断へと至る中で(※つまり公的に攻撃を公表する以前から攻撃をする意志がブッシュには存在していた。このことは同書からも読み取れる。)、アメリカの自由を広める責任や、テロを防止することの不可能性のために先制攻撃が必要であることや、中東の安定などは出てくるのだが当初から一貫した論理は存在していない。

 そして最後に、日本に関連するいくつかのことを述べておきたい。まずは閣僚の能力の違いである。同書では国家安全保障会議の様子も描かれているが、その中でラムズフェルド国防長官とパウエル国務長官の白熱する質のある議論(感情のぶつけあいではない)が行われている。また、ラムズフェルドの国防総省の改革も、知識と指針があってこそのものだと思わずにはいられない。ここにアメリカの強さの、したがって日本の弱さの、源泉の一つを見ることができる。それから、アメリカ以外の国と日本との比較も考えさせられるものである。すなわち、その求めに応じてブッシュが国連決議を得ることを決断することになったイギリスのブレア首相や、「この口髭が、いつも大統領のそばにおります」(p522)という粋な発言をしたスペインのアスナール首相や、オーストラリアのハワード首相といった人物は度々登場し、ブレアに至っては実質的な影響力さえ持っているのである。それに比べて、この580ページに及ぶ大部の中で「小泉純一郎」の名が出てくるのはわずか1箇所(※ブレア23箇所以上、アスナール11箇所以上、ハワード7箇所。本書索引より)で、しかもその内容は訪日の際にブッシュが小泉首相に、1945年の日本へのアメリカの手助けが日本の繁栄を助けたという経験をイラクにも適用させることを語ったというものである。(p542)(つまり小泉首相の発言ではない!)ちなみに、「日本」の国名が出てくる6箇所もほとんど全てが第二次大戦の文脈で歴史的教訓としてであり、現代の日本は登場しない。もちろん、これらは著者の偏向によるものとも考えられないことはないが、イラク戦争までの日本の果たした役割や、国際社会での日本のレーゾンデートルについての1つの認識や事実を示すものであることは否定できない。国連決議についてアメリカに働きかけているという川口外相の国会(委員会)での答弁が虚しく思い出される。

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