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結城康博 『医療の値段』 (岩波新書、2006年)
医療の値段の仕組み、医療と政治との関わりを紹介した医療政治入門。医療の値段の決定過程から日本医師会や武見太郎や日歯連事件まで扱われる対象は幅広く、かつ興味深いけれど、いかんせんどの項目も切り込みが浅すぎて退屈。確かに、医療の値段の仕組み等についてはよく知らなかったから基本から教えてくれるのはありがたいけれど、簡単な基本だけで200ページを費やすのにはさすがに不満が残る。
それにしても、武見日本医師会の政治的行動は今では考えられないほど凄まじい。開業医の保険診療を止めさせたり、東芝機械社長の発言に反発して東芝製品の不買運動をしたりしている。特に、前者はその影響でその月(1971年7月)の診療件数が前月の半分になるという実害も出ている。
ところで、「あとがき」で著者は「医療政治学」という領域を設けることにも言及しているけれど、その割には政治学の業績を援用しているようには見えなかった。
例えば、「武見太郎が影響力を行使できた理由」という重要な問いについて、政界上層部とのパイプや社会情勢を見極める力などを特に根拠もなく提示しているだけで詳細な分析は行われていない。このような問いに対する詳細な分析は、現在、開業医が日本で高収入な業種を築いていることと医師会の影響力との関係を明らかにするのにも繋がるだけに、残念である。
そんなわけで、この領域についてより知識を深めるには、この本の参考文献に挙げられている本に当たることが必要なようだ。例えば、本屋で興味を惹かれてはいた水野肇『誰も書かなかった厚生省』『誰も書かなかった日本医師会』(草思社)は気が向いたら読んでみよう。あと、池上直己、J.キャンベル『日本の医療』(中公新書)もいいかもしれない。