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 五十嵐武士、福井憲彦 『アメリカとフランスの革命 〈世界の歴史21〉(中央公論社、1998年)
 
 
 〈世界の歴史〉全30巻のうちの1巻。世界史の中でも特におもしろい二つの出来事を一冊で扱っているところに惹かれて、古本屋で安く売っていたところを購入。それ以来、調べ物をするのにぺらぺら見るだけだったのだが、改めて最初から読んでみた。

 というのも、少し前にシュテファン・ツワイク『ジョゼフ・フーシェ』(岩波文庫)を読んでいたのだが、フランス革命時代を描いたこの小説では、焦点を当てられている人物以外の出来事や重要人物などに関してはあまり詳しく書かれていなかったために、この小説をもっとよく理解するためにも改めて史実を知りたくなったからである。ちなみに、アメリカ独立革命の方は元々興味を持っている出来事だったから一緒に読んだ。
 
 
 それで、二人の執筆者がそれぞれを別々に書いているこの本の感想を簡単に言えば、フランスの方は分かりやすくておもしろいが、アメリカの方はつまらない。

 アメリカの方は時間を追いながら書かれているのだが、時間・歴史という“縦”の流れを感じさせない、項目ごとの箇条書き的な印象を受ける記述。しかも、国内政治・経済・国際関係などの各項目ごとの“横”の有機的な連関もなく、それぞれが同じ時代の出来事のようには感じられなかった。

 それに比べて、フランスの方はとても巧みな記述で、おもしろく読み進められる。しかも、偏った扇情的な視点ではなく、冷静で、歴史学の成果にも気を配りながら、それでいて読み物としてもおもしろく書かれている。(もちろん、自分は歴史学について全く無知だから、最新の歴史学の視点からどのような評価になるのかは分からないが。)

 より具体的な内容に関しても一つだけ言うと、フランス革命の過程で色々と派生していく各グループの関係(例えば、ジャコバン派とジロンド派と山岳派の関係とか)について、かつて習ったときには若干混乱していたのだが、この本では、この点が意識的に丁寧に説明されていてよく理解できた。
 
 
 
 ところで、この本を読みながら、自分がなぜ、アメリカ独立革命、フランス革命をおもしろく感じる一方で、明治維新にはあまりおもしろみを感じないのか考えた。その答えは、考えてみればあまりに単純なものだった。

 要は、アメリカ・フランスの革命は(その大多数ではなくともある程度の数の)「民衆」によるいわゆる「下から」の動きが重要な役割を果たしたが、明治維新は一部のエリートが起こした「上から」の革命であるという決定的な違いがあるのだ。

 言うまでもなく、「下から」のものが全て良く、「上から」のものが全て悪いわけではない。そう遠くはない歴史上に、「上から」の独裁もあれば、「下から」の独裁もあった。

 ただ、米仏の革命と明治維新とを比較しながら、日本で「下から」の肯定できるものが何かあったかと考えた。その結果、現在も存在し続けている日本国憲法は「下から」の動きの成果だと理解できると思い至った。

 現行憲法は、制定当時、多くの国民が支持したし、その後も60年に渡って常に大多数の国民の支持を得ている。

 この点、アメリカ側が草案を作ったことを以ってアメリカによる「押し付け論」を主張する人もいるが、この主張の前提とする権力観はあまりに単純であって学問的にもっと詳細な検討を要すると思われる。つまり、「アメリカといえども日本国民の多数の支持を得られない憲法は作れないから、基本的には日本国民の望む内容のものを作らざるを得なかった」という仮説を立てることができるのだ。

 「押し付け論」が前提とする単純な権力観から、「やはりアメリカの方が強かったから日本国民はどんな憲法であっても反対できなかった」のか、それとも、「アメリカといえども多くの日本国民が反発するような憲法は作れなかった」のか、どちらが正しいかは学問的な検討が必要であって、簡単に判断すべき(できる)ものではない。ただ、結果だけから見ると、アメリカ側が出してきた草案が当時の多数の日本国民が支持する内容のものであったのは事実である。

 この事実を重んじて、現行憲法には日本国民の間接的な影響力が及んでいると考え、これに60年に及ぶ現行憲法への支持(≒不改正)を併せて考えるなら、日本国憲法を日本における「下から」の動きの成果として捉えることは可能なのではないだろうか。

 巷の評論家や政治家はともかく、このような主張・研究をしている学者はいるのだろうか。

 元の本の話から離れてしまったが、こんなことに思いを馳せた。

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» 無題
読書感想文や書評の重要な点は、書き手の頭の程度が明瞭になることである。興味本位な歴史の読み方がいかに皮相なものかがよくわかる感想だった。
(No Name) 2011/09/09(Fri)19:54:09 編集
» 無題
そうですか。どうも。

これを書いたのは5年半前ですが、その後も、「今まで知らなかった!」と気づくことが日に日に増え続けて、自分の頭の程度に愕然とする日々が続いています。

「働いている場合じゃないんじゃないか!」と何度思ったことか・・・
ST25@管理人 2011/09/09(Fri)23:09:50 編集
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