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 広田照幸 『日本人のしつけは衰退したか(講談社現代新書、1999年)
 
 
 若者が問題を起こすと、事あるごとに「家庭のしつけがなっていない」とか、「昔は親がしっかりと厳しくしつけていた」とか憂える人がいる。大新聞、ニュースキャスター、政治家、教育評論家、現役カリスマ教師といった人たちだ。こういう人たちの頭の中では、「問題が起こっている現在」と「すばらしき過去」という“二次点間”での比較が行われている。しかも、そこでの「現在」というのはたった一つの事件を過度に一般化したイメージで、「過去」というのはいつどこに存在したかも分からない自分が理想化して勝手に作り上げたイメージである。

 このような惨状に対して、この本の著者は明治後期くらいから現在までのしつけの歴史を丁寧に追うことで、しつけの真の歴史を“線”で描き出す。しかも、その“線”は階級間の差や都市・農村の差などが考慮に入れられることでより立体的で骨太なものになっている。こうしてこの本で浮かび上がらされるのは、日本におけるしつけの歴史の全体像である。

 
 
 この本では主張を証明するために、各種世論調査、その時々に読まれていた教育読本、昔の親の日記などが参照されている。その量の膨大さや幅広さには驚かされる。しかし、あらゆるところから持ち出される世論調査それぞれの正確さや、取り上げられる個人の手記の選択に際しての恣意性といった問題がある可能性は否定できない。

 とはいえ、世論調査の結果というマクロな証拠と、個人の手記というミクロな証拠との両方が挙げられていて、しかも、いちいちその出典も明記されているから、著者が学者としての職業倫理を遵守していると考えて問題はなさそうである。
 
 
 さて、本書が描き出すしつけの実像を簡単に見ていこう。

 「古き良き家庭」としてイメージされることの多い戦前期の農村や都市下層の家庭では、親は両親ともに仕事にかかりきりで子供に対してはほとんど自由放任であって、しつけをすることはなく、家計を守ることが最大の関心事であった。そのため、子供に手伝わせる仕事に関する限りで子供をしつけることがあった程度であった。他方で、戦前期でも、まだ一部にすぎなかった新中間層の家庭ではしつけや受験勉強の強制を行う親が多かった。ちなみに、農村の親とは反対に、このように親がしつけや受験勉強に積極的に関与していこうとする家庭のことを著者は「教育する家族」と呼んでいる。

 戦後になり、この新中間層の家庭が善いモデルとされ、逆に地方や下層の(「古き良き」と思われることの多い)家庭は、「遅れている」とか「非民主的」とか「封建的」といった非難を浴びるようになった。このような規範の変化に、経済的な豊かさの享受が伴うことで、高度成長期頃には、「教育する家族」が主流を占めるようになった。ここで初めて、しつけをする親が主流を占めるようになったのだ。

 また、このことは家庭と学校との関係を転換することにもなった。すなわち、戦前期には、親は子供の進路などに現在のように関心を持つこともなかったし、学校は「遅れた地域社会」を改善する進歩と啓蒙のための「一歩進んだ」装置であった。しかし、戦後になって親が子供のしつけや進路の担い手となってからは、子供を「預からせていただく」学校は親に従属する立場に成り下がったのである。

 このような現在に続く「教育する家族」の問題点として、著者は、子供のしつけや進路に関する責任が過度に親に負わされてしまっていることを挙げている。
 
 
 以上が本書のかなり大雑把な内容である。

 とりあえず、「昔は~」という言説の虚妄性は明らかだ。

 それでは、社会的にしつけをどう考えていくべきか。

 余計なことを考えるべきではない、と個人的には考えている。もちろん、最低限、法を守るといったようなことは教える必要がある。ただ、これは親がどんなだろうが家族がいようがいまいが教える必要があることだから、これだけを義務教育でカバーすれば、他に他人や社会や政府がやるべきことはない。

 そして、重要なのは兎にも角にも次のことを認識することだ。すなわち、子供だろうが大人だろうが悪いことをする人はいるし、それは、高学歴だろうが低学歴だろうが、金持ちだろうが貧乏だろうが、男だろうが女だろうが、スポーツ好きだろうがオタクだろうが、関係ないということ。こうして下らない固定観念を脱したところから議論を始めないと無意味な労力を注ぎ込むだけでなく、潔白な誰かしらを傷つけることになりかねない。

 その上で次のことを広い視野と豊かな想像力によって理解する。法と道徳の分離、公と私の分離。

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