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飯田泰之 『経済学思考の技術――論理・経済理論・データを使って考える』 (ダイヤモンド社、2003年)
「議論とは何か」から始めて、経済学的思考方法の基本、簡単な経済理論、これらの応用としての日本経済分析を経て、「日本経済への処方箋」にまで至る壮大な試み。
とはいえ、上手い具合に要点が絞られていて、なおかつ、分かりやすく説明されているから、すらすらと読める上に、よく理解できる。
「論理・経済理論・データを使って考える」という副題どおり、日本経済の分析・処方箋のところでは、適宜、基本的かつ重要なデータを示しながら分析・主張が展開されているのもありがたいし、説得的である。
ちなみに、著者が提示する日本経済の大停滞の原因とその処方箋は、かなり簡単に言えば、「デフレ期待の定着→リフレ政策(特にインフレ・ターゲット?)」。
この本の中で自分が一番興味をもって読んだのは、「【リフレ政策が有効な理由】背理法による証明」のところ。ちょっと長いけれどおもしろいから引用しておこう。
「 政府・日銀はタダ同然で生産できる「紙切れ」を「1万円」として取引を行うことができます。これが通貨発行益(シニョリッジ)です。政府がシニョリッジという形で収入を得る一方で、経済はインフレ傾向になるでしょう。
つまりは民間は保有する現預金、名目額が固定した金融資産の価値が減少するという形で「課税」されるというわけです。さて、ここで政府・日銀が通貨発行を行ってシニョリッジを獲得してもインフレが起きないとしましょう・・・・すると民間側には何ら負担がないまま、政府は収入を得続けることができます(実際には日銀が大きな収益を得てそれが国庫納入されます)。民間の負担なしに政府が収入を得られるというのならば・・・・これは税金そのものを取る必要がないということではありませんか!全ての税から日本国民が解放されるというのならば、これはもうデフレなんてどうでもいいと言えるかもしれません!しかし、幸か不幸かそのようなことはあり得ないでしょう。経済の基本は「稀少性」です。以上の議論はその前提である「政府・日銀が通貨発行を行ってシニョリッジを獲得してもインフレが起きない」が誤り――つまりは政府・日銀の拡張的貨幣供給は、必ずインフレを引き起こすのです。 」(pp238-239)
この論法は非常に説得的である。そして、その内容がなんとも滑稽で微笑ましい。(少なくとも素人談議で)「リフレ政策ではインフレ化できない」という主張をしている人に対して、この論法を持ち出したらおもしろいだろう。
著者が整理しているように、この通貨発行益(シニョリッジ)の効果は、インフレになればデフレからの脱却になり、逆にインフレが起きなければ財政を改善できるという、どっちに転んでも良い状態になるというものなのである。
ちなみに、このシニョリッジが財源であることに注目した政策の注意点として、インフレが止まらなくてハイパー・インフレになる危険性があるため、インフレ・ターゲットのようなインフレ抑制のシステムと組み合わせる必要が指摘されている。
非常に優秀な政策のように見えるのだが、この政策を主張している人に当たったことがない。結局は、インフレの方向に振れるから、あえてこのシニョリッジを使う必要はないということなのだろうか。それとも、他に問題があるのだろうか。