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小林良彰『公共選択 〔現代政治学叢書9〕』 (東京大学出版会、1988年)
昨日取り上げた井堀利宏『経済学で読み解く日本の政治』を読んで、公共選択論の主流もあんなに“金銭”的基準で政治を分析しているのかが気になって、この本に取り掛かってみた。
とはいっても、政治学者が書いている時点で金銭的基準が相当弱められているだろうことは想像できるが。(もちろん実際そうであった。)
この本は「公共選択」とはいっても扱っている対象は広い。
なんせ、ロールズの正義論から入り、アローの一般可能性定理、連合理論、ダウンズ・モデル、空間理論といった一般的な内容がたっぷり来て、それから、オルソン、ハーシュマン、ティボーなどを挟み、最後に公共選択論の意義と課題で締められている。
途中、数学を使い、さらに十数種類にパターン分けされていたりして複雑であり、議論を追えないところもあった。(想定の範囲内だが。)
そんな自分には、前日の『経済学で読み解く日本の政治』からの関心で、「投票に行くか棄権するか?」に関する議論のところがおもしろかった。
ダウンズの「P×B+D-C≧0」で投票に行くという「期待効用モデル」以外にも、フィアジョン&フィオリナによる「ミニマックスリグレットモデル(最大損失最小モデル)」というのがあるらしい。
これは、他の有権者の投票意思が不明確な場合に、他の有権者の投票についての予測を誤って思わぬ損失を被ることがあるため、自分が最悪の事態に陥ることを防ぐという戦略を用いるモデルである。この消極的選択はロールズの「無知のヴェール」を思わせる。
このモデルの利点は、ダウンズのモデルより棄権を選択する可能性を低く抑えることができる点である。
とはいえ、平凡にも、やはりポイントは「D(投票義務感とか長期的に民主主義を擁護する目的とか)」にあるのではないかと思えてしまう。この本が書かれてから二十年近くも経っているだけに、その後の研究の進展が少し気になる。
ちなみに、アメリカ大統領選を用いたシミュレーションによると、ダウンズのモデルでは実際の棄権の少なさを予測できないが、他の部分に関しては説明力があるとのことである。
この本は、理論の紹介が重視されているため、実証があまり書かれていない。実証までしている本も余裕があれば読んでみたいと多少思う。