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東谷暁 『金より大事なものがある――金融モラル崩壊』 (文春新書、2006年)
なんとも俗っぽいタイトルだけど、要はアメリカ型の「株主資本主義」を批判している本。
福井日銀総裁の「内規には違反していない」発言から説き起こして、日本の一歩先を行っているアメリカの例を豊富に参照しながら、主体で言えば、村上ファンド、ホリエモン、オリックス宮内会長、野村證券などを、概念で言えば、コーポレート・ガバナンス、M&A、規制緩和などを、批判している。
著者は、問題が起こるのは、人物のせいではなく仕組みのせいだとしている。
「 なぜ、この〔ライブドアとAOLの〕ように似たような現象が〔日本とアメリカで〕起こるのだろうか。それは登場する人物たちの性格が似ているからではない。金融経済の人々を駆り立てる仕組みが類似している場合には、そこで生じる不正事件も類似するだけのことなのだ。
話題をよぶ新興企業がある。高利回りで投資したい金融機関がある。手数料と報酬を獲得したい投資銀行や証券会社がある。ごっそりと利鞘(りざや)を稼ぎたい投資ファンドがある。一儲けしたいコンサルタントがいる。うまく立ち回って金を自分に誘導したい法律事務所がある。利益相反など無頓着なアナリストがいる。そして、ちょっと小金を儲けたいデイ・トレーダーがいる。これらを結びつける仕組みが新たに許されるようになれば、発火温度は極端に下がり、お祭りがあっという間に燃え上がる準備はOKとなる。 」(p89)
村上ファンドとかライブドアとかの問題は、個人の道徳の問題に帰しても無意味だし、アメリカでの推移を参照しないのも愚かしい。(だから、テレビ、新聞の報道は全くと言っていいほど役に立たない。)
その点、この本は冷静で包括的で有益である。
ただ、問題点もいくつかある。
一つは、批判したものの代替案がないこと。
ヨーロッパ諸国のようなM&Aの制限など、断片的には書かれているけど、アメリカ型の「株主資本主義」の利点を補うものであるのか?といった基本的な疑問にも答えられていない。
もう一つは、上の引用部分に見られるように合理的な経済アクターの存在を受け入れていながら、「文化」とか「信頼」とか経済非合理的に思えるものを重視していること。
経済合理的なアクターを想定している代替案があれば良いのだけど、それがない限りは、「アメリカ型株主資本主義」は原理的・理念的であるだけに、否定しがたいところがある。
オルタナティブについてはヨーロッパにヒントがありそうだから、ヨーロッパの資本主義に関する本を読む必要がありそうだ。
日本で行われている「アメリカ型の株主資本主義」的な方向性での改革についての最終的な判断はそれからだ。
とはいえ、良い本があるのだろうか?
全く検討がつかないから、とりあえず、関係ないけど、最強ヘッジファンドと言われた「LTCM」の興亡に関する本が読みたい。
〈前のブログでのコメント〉
- みんなが金を一番大事だと思ってるから、金が一番大事な社会ができる。一般意志です。
- commented by やっさん
- posted at 2006/12/21 13:13
- さすがにナイーブすぎる主張かと・・・。この本は、あくまで経済に関する本なので、話を社会一般にまで拡げるべきではないと思います。それに、本文にも書いたように、この本では「個人の意思」の問題より「仕組み」の問題が重要だと言ってますので。
さらに言えば、みんなが「金は大事だ」とは思っているにしても、「みんなが金を一番大事だと思ってる」かどうかは疑問です。 - commented by Stud.◆2FSkeT6g
- posted at 2006/12/21 16:47
- そうですね 金よりも自分が一番大事なのが資本主義社会ですから。
- commented by やっさん
- posted at 2006/12/21 20:22
資本主義というか、その前提たるリベラリズムですね。 - commented by Stud.◆2FSkeT6g
- posted at 2006/12/21 21:37