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ボブ・ウッドワード 『ブッシュのホワイトハウス(上・下)』 (伏見威蕃訳/日本経済新聞出版社、2007年)
ウォーターゲート事件を暴いた記者によるブッシュ政権内幕物「ブッシュの戦争」の第3弾。
アメリカの対イラク戦後政策が失敗した過程が克明に描かれている。
自分は正しくて全能だと(自覚なしに)信じ込み、ネガティブな情報やそういうことを口にする人員を近づけないという、あまりにベタな人間の弱さが、超大国の中枢で、主権国家間の戦争という超重要マターにおいて出てしまった。
描かれる(やり玉に挙げられる)のは、ラムズフェルド前国防長官を中心に、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、軍のトップである統合参謀本部議長など。
アメリカからすれば政治も経済も宗教も全く違う遠く離れた国で行っている戦争であるにもかかわらず、ワシントンの人々が現地にいる軍人や行政官の情報や意見に耳を傾けないというのは、なんとも喜劇的である。
無能なリーダーを持つことが、いかに自国にとっての“安全保障上の脅威”であるかを思い知らされる。
実際、アメリカは対イラク政策の大失敗(と9.11を防げなかったこと)で、イランや北朝鮮など敵対している国家に対する抑止力を減じてしまったと考えられる。
日本にとって、アメリカのこのパワーの浪費はどのようなことを意味しているのか。簡単に思考実験してみよう。
今後、“数十年”に渡って、“世界の警察”アメリカによる抑止の実効性が怪しくなり、また、アメリカ国内でも対外不干渉で内向きなモンロー主義が主流になることが予想される。(「イラクの後遺症」とでも呼べる。) さらに民主党政権になるとするなら、親日より親中路線になることが予想される。(これは冷戦終焉後においてクリントン民主党政権が(たった)8年続いたのとは訳が違う。)
この場合、東アジアにおける「日米対中朝」という構図が変わりうる。
すなわち、アメリカの抑止力の低下および強硬路線の放棄に、アメリカと仲良くしたい中国と中国と仲良くしたいアメリカとの利害の一致が加わり、北朝鮮に対する態度で米中が妥協すると思われる。すると、「米中+朝と、孤立する日本」という構図になりうる。(この場合、日韓が近づくかもしれない。)
こうなった場合、日本は対米追従からの脱却が進めやすくはなるだろうが、(アメリカがいる限り武力衝突にはならないにしても、)中朝との緊張関係が高まり、東アジアでの孤立を深める可能性がある。
これは良いシナリオではない。
これを回避するには、(これまでの話の前提を覆すが、)そもそも、日米関係を徹底して維持するか、米中がくっ付く前に日中の親密さを上げておくか、もしくは、スイスみたいな完全な独自路線を歩むかしかないように思える。
これはかなり単純で大雑把で過激(※ここ重要。言い訳。)な一推量だけど、日本にとってイラク政策失敗のインパクトが大きいことに変わりはない。
そして、それがマイナスの結果になったとき、ラムズフェルドはこの本を基に、将来の日本人から恨まれることだろう。