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 今朝、我が家で取っている読売新聞の朝刊を読んでいて、社説のタイトルが目に留まった。
 
『[『戦後』を超えて]「新憲法へ大きく踏み出す時だ…国家目標を定めよ」』

というもの。なかなかかっこいい、力の入ったタイトルだ。これは読売の主張を年の初めに張り切って出してきたに違いないと思い、久しぶりに読んでみた。社説を読むのはプロ野球の新規参入が問題になっていたとき以来だ。

 読んでみて驚いた。さすがに張り切って主張しているだけあって、読売らしさが全開だ。以下、コメントしていこう。

 最初の方に以下のような、主張の大枠である文章が出てくる。
 
 『戦後の国際政治の基本的な枠組みだった冷戦構造が消えて久しい。戦後政治を彩った、イデオロギーの対立を背景にした保守・革新の対決や、高度経済成長ももはや歴史の一コマになった。「戦後民主主義」も、時代の変化に既に乗り越えられつつある。

 憲法制定時には想像も出来なかった歴史的変化を乗り切る指針となる新たな国家像を描かなければならない。

 憲法改正とは、「戦後」思考を超えて、二十一世紀の日本の確かな基盤を築くことにほかならない。』

 タイトルからも分かるとおり、この社説全体に渡って「戦後を超えて」がキーワードになっている。上の文はそれを説明している。そして、その「戦後」とは「イデオロギーの対立を背景にした保守・革新の対決」、「高度経済成長」、「戦後民主主義」の3つだと分かる。これらが「歴史的変化」であり、これを乗り切るために「新たな国家像を描」く必要を説く。そして、その国家像を描くこととは「憲法改正」にほかならないとする。

 『「戦後民主主義」も、時代の変化に既に乗り越えられつつある』とはどういうことだろうか?「戦後民主主義」とは何を意味するのか?そんなに一般的にコンセンサスの得られる意味が定まっているのか?「戦後民主主義」と現在の民主主義との違いは?

 『憲法制定時には想像も出来なかった歴史的変化を乗り切る』とあるが、「変化を乗り切る」というのはおかしい。「変化」という言葉自体は中立的な言葉であって、すぐさま「乗り切る」べきものとはならないからだ。変化に伴う問題点を指摘する必要がある。

 「国家像を描くこと=憲法改正」という意味不明なロジック(?)。自分の主張を正当化することに気を取られすぎて盲目になり、論理を追うことさえできなくなってしまっている。正直恥ずかしい。


 続いて、現在の憲法改正をめぐる国民や政党の動きが紹介され、『憲法改正へ論議を加速させることは、政治の責任である』としている箇所。この冒頭がひどい。

 「読売新聞世論調査では「憲法を改正した方がよい」と答えた人は、65%にも上る。現行憲法の理念や規定が現実と大きく乖離し、もはや限界を超えている、という認識が国民に広く定着している。」

 ここでは一つの事実から一つの解釈が引き出されている。一つの事実とは、「憲法を改正した方がよい」とした国民が65%いたというものだ。解釈とは引用文の後半だ。おかしさは一目瞭然だ。「憲法を改正した方がよい」という内容から、どうすれば『現行憲法の理念や規定が現実と大きく乖離し、もはや限界を超えている』という解釈を引き出して来れるのだろうか?凄まじき力技。さすがにこれには脱帽。


 次は憲法論議に際しての基本的な注意事項が述べられている。

 『憲法を論じるに際して、国家と国民を対立概念としたり、「個の尊重」を過度に強調したりするのは、「戦後民主主義」の思考の一つだ。

 個人主義とは本来、社会や共同体の重要性を認識し、他者の自由や権利を尊重する、責任ある個人主義だ。だが、行き過ぎた「個」の尊重のため、単なる自己中心主義に陥る傾向が目立っている。』

 まず前半部。「国家と国民を対立概念」とすることは「戦後民主主義の思考」だからダメだと。全く論証になっていない。戦後民主主義を持ち出せばなんでも否定できると思い込んでしまっているようだ。さらに、思えば最初の方で『「戦後民主主義」も、時代の変化に既に乗り越えられつつある。』と自分で言っていたではないか?乗り越えられつつあると思うなら、あえて主張するまでもないはずだ。

 続いて後半部。『個人主義とは本来』から始まる。「本来」って言うけど果たしていつ、どこで唱えられた個人主義の話をしているのだ?個人主義とは本来、ルネサンス期や宗教改革期の頃に起こってきたものであったのだ。Do you know that?

 「行き過ぎた「個」の尊重」を批判するが、アナーキストでもない限り、「行き過ぎた」個の尊重は否定するものだ。「行き過ぎ」とか「過度」とかを言うならばその程度や内容が問題なのだ。したがって全く内実のない主張に過ぎない。

 「個が行き過ぎて自己中心主義に陥る」って、自分たちの前会長のことか? それなら説得力がある。


 続いて、個の問題から共同体の問題へとつながる。

 『この結果、公正、正義といった観念が薄れているという指摘がある。社会や共同体の絆(きずな)が失われ、社会の存立の基礎が揺らぐ不安も広がっている。

 社会の基礎単位である家族の崩壊も、その一例だ。家庭内で、児童や高齢者への虐待が絶えない。引きこもりの青年が両親を殺害するなどの事件も発生している。独居老人も増えている。』

 「正義」というあいまいで多義的な言葉を安易に使うな。

 後半では家族の崩壊の例証として、児童や高齢者への虐待と引きこもり青年の両親殺害事件、独居老人の増加の3つを挙げている。“しつけ”という名の児童への虐待は昔からある。「引きこもり青年」が両親を殺したことが家族の崩壊の象徴たり得るのか?子が親を殺したことが重要なはずで「引きこもり」というのは関係ないだろう?悪い印象を与えようとする悪意が見える。独居老人の増加は「老人が自己中心主義に陥った」「自立した」とも言える。要は、どれも例証たりえていない。日本人は数学が弱いという記事を先日見たが、「なるほど」という感じだ。


 次に、『[権利と義務のバランスを]』という小見出しの下、まず、プライバシー権について以下のような文が出てくる。

 『例えば、「売れさえすればよい」と、個人の名誉やプライバシーの権利を侵害し、商品化する低俗な週刊誌が氾濫している。公益性などとは無縁だ。』

 読者のほとんどが「お前らはどうなんだ?」と突っ込みを入れているはずだ。勇気があるのか、鈍感なだけなのか?


 続いて、小見出しの核心が登場する。

 『現行憲法の権利と義務の規定は、権利に偏重している。そのバランスを正すための議論も必要である。

 国家には、国民の生命・財産を守る義務がある。だが、国家が国民の生命・財産を守ることが出来るのは、国家の独立と安全があってこそだ。徴兵制を採らない国でも、憲法に「国防の義務」を明記している国は少なくない。』

 とにかくおかしいのは、なぜ権利と義務の「バランス」を取る必要があるのか?別に、権利と義務はトレードオフの関係ではない。


 最後にメインディッシュ。読売さんのために全て引用。

 『憲法改正の核心は九条改正だ。何よりもまず、憲法に「自衛軍」を明記し、「自衛隊は軍隊ではない」という虚構を解消するべきだ。世界を見渡しても、日本だけの戦後思考の典型例だ。集団的自衛権の行使や、国際平和維持・創出のための武力行使を認めないのも同様である。

 9・11米同時テロ後の安全保障環境の変化に伴い、自衛隊の活動範囲は国際的にも広がっていくだろう。日本の安全は無論、日本の存立の基盤である、国際社会の平和の構築と維持のためにも、九条改正は急ぐべき課題である。』

 九条を改正の核心としている割には薄弱な根拠。



 主張はどうであれ、論理がこれだけひどいと苦情を言いたくなってくる。しかし、読売の社説には執筆者の記名はない。いくら「社説」とはいっても社内でこんな政治的な問題で意見が一致するわけもないし、民主的手続きを経て作られたものでもないだろう。責任者・担当者の記名は行うべきだ。

 ただ、現時点で記名はなく、社説は読売新聞社の総意と受け取るのが妥当だろう。そうすると、読売新聞の人たちは皆、イデオロギッシュに論理も無視して主張する前近代的な野蛮人だということになる。(おそらく、朝日新聞もNHKもあらゆるマスコミは同様だろう。本当はバランスを取るために朝日新聞も取り上げたいのだが、家では朝日新聞は取ってないし、ネットで見るのは手間がかかるためやらない。)


 それにしても、こんな主張をされても議論や対話は不可能だ。論理は前提にしてほしい。この前提が崩れると、それこそ「社会の存立の基礎」も崩壊しかねない。気を付けてほしいものだ。


 ※以上、引用は『読売新聞』(2005年1月4日朝刊第3面、URLはこちら

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