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村松秀 『論文捏造』 (中公新書ラクレ、2006年)
ノーベル賞候補とまで言われていたドイツ人若手物理学者ヤン・シェーンが21世紀初めに引き起こした史上空前規模の「科学論文捏造事件」の真相を追ったNHKのドキュメンタリー番組の書籍化。
おもしろい。
誰がやっても同じ結果が得られる「再現性」が担保されている物理学は、科学の中でも優等生的な地位を占めている。そんな物理学においてなぜこんな捏造が起こり、しかも数年もの間それは暴かれなかったのか?
シェーンが所属していたアメリカの名門ベル研究所、捏造論文を掲載していた一流科学雑誌『サイエンス』・『ネイチャー』、物理学の最先端分野の一つである超伝導を研究していた世界中の一流物理学者、シェーンと共同研究を行っていた先輩・同輩、彼らはなぜ捏造を防げなかったのか?
これら興味深い疑問に、多角的に(そして手厳しく)迫っている。
少し前に取り上げた、サイモン・シン著『フェルマーの最終定理』が成功のサイエンス・ドキュメントの傑作なら、こちらは失敗(不正)のサイエンス・ドキュメントの傑作。
ただ、今回の本では、舞台となった「超伝導」それ自体の話は(不正が主題だから当然とも言えるけど)あまり出てこない。
けれど、「はじめに」で見せている著者の科学的思考力からすると、それは正しい判断だと思える。
というのも、著者は、アメリカの研究チームが行った生命系研究者への大規模な調査による「アイデアの盗用1.4%」「論文の多重投稿4.7%」「矛盾するデータの隠蔽6.0%」「資金提供者からの圧力による研究方法・結果の変更15.5%」という集計結果から、「3人に1人は何らかの不正をしていた」という結論を導いているからである。(※『ネイチャー』誌の元の記事を見たわけではないけれど、常識的に考えて重複回答があると思われるから数字を足すのはおかしい。)
とはいえ、読み物としてのおもしろさや、科学や学問のあり方への問題提起の鋭さに変わりはない。
それにしても、自分は科学性の低い社会科学・人文科学に慣れ親しんだ人間だからこそ、逆に、実験結果に関する物証を出さない研究・論文を認めてしまうというのが信じられない。統計データの出所を言わないみたいなものでしょ?