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エドワード・ドルニック 『ムンクを追え!』 (河野純治訳/光文社、2006年)
「『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日」という副題の通り、1994年にスウェーデンで盗まれたムンクの『叫び』の奪還に成功したイギリスの捜査官チャーリー・ヒルによる囮捜査の様子を、取材を基に再構成したドキュメンタリー。ただ、この話が中心ではあるけれど、美術犯罪や絵画にまつわる逸話がたくさん盛り込んであって、こちらの方もなかなかおもしろい。
全人類の財産であり厳重な警備が敷かれているだろう傑作がなぜいとも簡単に盗まれてしまうのか、そして、その盗まれた作品はどういう人の手元に渡っているのか、という疑問を昔から持っていた。それでこの本を読んでみたわけである。
この二つの疑問について、捜査・捜査官を主題に当てたこの本ではそれほど詳しくは答えてはいないけれど、ある程度は答えてくれていた。
答えだけを簡潔に言えば、まず警備に関しては、美術作品の警備はどんな傑作であっても意外なほどに手薄であることが結構あり、被害に見合う保険がかけられていないことも多いとのことである。実際、この本が描いた一度取り返されたムンクの『叫び』は2004年にまた盗まれている。
それから、盗まれた作品の流通に関しては、犯罪に関わっている作品をほしがる金持ちは実際のところほとんどおらず、窃盗犯は盗んでから処理先を探し、麻薬などの代金として流通したりして粗雑な扱いを受けることも多いとのことである。
それはさておき、この本は、人物の描き方にしても、数多くの逸話にしても、著者の力のお陰でおもしろい「読み物」になっている。事実や豆知識を叙述するだけでもなく、物語を追うだけでもなく、両者のバランスが適度に測られている。美術犯罪という分野は、ほとんど何も知らない分野であるだけに、この知識と物語との適度なバランスはとても嬉しく、心地良ささえ覚えた。
よくこんなマイナーな本(たぶん)を訳して出版したものだ。