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 大下英治 『郵政大乱!小泉魔術(マジック)(徳間文庫、2005年)
 
 
 郵政法案の衆院可決から解散総選挙での自民党大勝までを描いた書き下ろしの政治小説。非常に多産な著者らしい素早さ。(ちなみに、この著者は最近、平沼赳夫、武部勤についての小説も出版している。→『平沼赳夫の「宣戦布告」』、『驚天動地の男 武部勤』)

 ただ、この本は、あまりに出来事が起ってから間もないためか、やや強引な解釈とか、筋の通らない記述とかが散見されて、いまいちの出来なように感じる。一つ例を挙げれば、国民の関心が徐々に郵政に向かっていったというのは各種の世論調査からしてもそうとは言い切れない。

 
 
 しかし、この本には先の総選挙や内閣改造で初めて注目されたような人たちが勢揃いしていて、いろいろ初めて知ることが多いのはおもしろい。具体的に、出てくるのは、二階俊博、小坂憲次、世耕弘成、能勢和子、鮫島宗明、藤田幸久など。
 
 
 また、忘れかけていた重要な出来事についての記憶を蘇らせてくれるのも一つの効用だろう。例えば、旧橋本派の闇献金事件で一人罪を被せられた感のある村岡兼造が小泉首相の“毒まんじゅう”を食っていたこと。郵政法案反対にある程度まとまっていた亀井派の中で土壇場になって賛成票を投じたのが、増原義剛、永岡洋治、西川京子であったこと。郵政法案に欠席・棄権した議員を不問に付したこと。そして、何より、次の事実。

「亀ちゃん、助けてくれ」
 小泉の手は、震えていたという。
 亀井は言った。
 「おれは、そもそも総裁選に出るつもりはなかった。あなたも、マイナス成長はやむをえないなどといわずに、われわれときちんと政策協定ができれば、協力をおしまないよ」
 亀井から報告を受けた江藤は、若手議員に命じた。
 「小泉陣営と、政策協定をやってくれ」
 これにより亀井は、本選挙を辞退することになった。
 亀井・小泉会談は、さらに総裁選の朝も内密におこなわれた。亀井は、小泉に釘を刺した。
 「われわれは、人事に注文をつけない。しかし、志帥会は、会長一任ということですべてやってきている。あとは、江藤会長と、よく相談してやってほしい」
 小泉は、江藤会長と相談してやることをはっきりと了承した。
 「わかった」
 小泉は、亀井が降りたことで、総裁選に確実に勝利をおさめることができた。
 ところが、小泉は、「江藤会長と相談して人事をやる」と約束した舌の根も乾かぬうちに、なんと、江藤・亀井派の平沼赳夫を、江藤会長に相談することなく、政調会長にと一本釣りにかかったのである。(pp77-78)

 このことに限らないが、マスコミの世論迎合ぶりを改めて感じる次第である。
 
 
 他にも、この本では、小泉首相を支えるキーマンであるが表には活動があまり見えない、飯島秘書官、武部幹事長、二階総務局長(当時)、与謝野政調会長(当時)の活躍(暗躍?)が分かるのもおもしろい。
 
 
 それから、民主党の枝野幸男の政局についての状況判断はなかなか鋭い。

民主党の枝野幸男は、突然の解散に苦い表情になった。
 〈解散させてはいけなかった・・・〉
 そうかといって、民主党が賛成に回り、法案を可決させるわけにもいかない。
 たとえば、民主党は、衆議院の郵政民営化特別委員会で竹中平蔵郵政民営化担当相の秘書官の知人が経営する広告会社が随意契約で政府広報を受注した問題を追及してきた。竹中担当相に対する不信任決議案を提出し、反対派が造反しにくい構造を作るのも一つの手である。
 枝野は、もともと、その論者であった。この一月の段階で、すでに親しい新聞記者に語っていた。
 「郵政民営化法案が出てきたら、三日ぐらい審議し、うちの主張だけきちんとして、さっさと採決させて通しちゃったほうがいい。ぼくが執行部なら、そうするけどな」
 平成十五年十一月の総選挙、平成十六年七月の参院選で民主党が躍進したのは、民主党の土俵で戦ったからである。つまり、選挙は、どちらが土俵を設定するかで決まる。
 郵政民営化関連法案は、自民党が設定する土俵だ。それは、選挙という観点でいえば民主党にとって得ではない。しょせん、自民党の内輪もめで政権交代は起こらない。それなら、さっさと法案を通してしまったほうがいいと枝野は考えていた。(pp226-227)

 
 
 
 しかしいずれにせよ、この本を読みながら一番考えたのは小泉首相の政治手法についてである。

 大平内閣不信任決議可決のときの行動や、90年代の“政治改革”への抵抗や、亀井派との合意を覆したことなどから、小泉首相は、自分の(あるいは、自分の主張の)ためなら筋を曲げることをも全く厭わない。

 しかし、郵政法案の欠席・棄権組を不問にしたことや、参院で否決されて内閣総辞職ではなく衆院解散を選択したことなどから、その自分の主張が筋が通っているかといえばそうでもない。

 そこで一つ思うのは、“筋を通すことと自分の主張を通すこととは違う”ということだ。本来、この違いには十分注意して見分けなければならないが、この点での国民的な不注意があるように思える。

 自分の主張を強く押し通すのは良いのだが、筋は通さなければいけない。自分の主張のために筋を曲げるというのは、独裁者の一歩手前である。

 旧態依然とした左派や一部の自民党造反議員は、安易に小泉首相を独裁者と呼ぶが、「独裁者が登場したのかどうか」は極めて重要な問題であり、政治的な目的のために安易に独裁者という蔑称を用いるべきではないと自分は考えている。

 そこで冷静に考えて、自分は小泉首相を独裁者だとレッテル貼りすべきだとは思わない。確かに、“手法”や“手続き”は民主的というよりは独裁的である。しかし、その主張の“内容”が既存の決定ルールや手続きを変えるものでもないし、法を無視して人権を簡単に蹂躙するようなものでもないからだ。(この点、首相の任期延長は一つのメルクマールであったと思うが、今のところポスト小泉への流れを作っていて、延長しそうにない。違った観点から見れば、任期延長を唱えていた人たちは独裁者を作りかねない人たちであり、要注意だ。)

 しかし、これらのことは、言い換えれば、小泉首相と同じ手法や手続きで過激な内容の主張をしたら、独裁者になるということでもある。この点では、小泉首相の手法はその主張の中身に辛うじて助けられたものであって決して誉められたものではない。

 何はともあれ、あと10ヵ月ほどで小泉首相は首相を退く。カリスマなき後、常人・凡人たちでいかに政治を行っていくのか。(※自分は、安倍晋三は凡人だと思っている。)また、カリスマ支配に慣れてしまった国民は常人・凡人の政治にどういう態度を見せるのか。日本政治の山は来年9月以降だろう。

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