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 ナタン・シャランスキー 『なぜ、民主主義を世界に広げるのか(藤井清美訳/ダイヤモンド社、2005年)
 
 
 帯に書いてある宣伝文句がとにかく激しい。

ブッシュ政権のバイブル、世界の行方を左右する問題の書!

「とにかく読んでほしい。私の信念に理論的裏づけを与えてくれた書」ブッシュ米大統領

「世界は、圧政国家に対するシャランスキーの考えを採用すべきだ」ライス米国務長官

 また、カバーの裏にはこんな逸話も書かれている。

第2期ブッシュ政権の根底に流れる「自由拡大思想」。その原典が本書である。米ネオコン人脈と親交があった著者シャランスキーは、再選後のブッシュからホワイトハウスに招かれ、本書の論理を説明。それ以来、大統領は会う人ごとにこの本を勧めるようになった。

 これだけ激しく大々的に宣伝文句を並べられると、逆に、軽くてつまらない本なのではと疑ってしまいそうだが、[解説]に宮台真司を擁することでその難点が抑えられている(?)。そして、実際、切れの鋭い読み甲斐のある本だった。

 筆者は、まず世界には「自由社会」と「恐怖社会」があるとし、恐怖社会では人々は「二重思考」を使っているため表面には表れないが、たいていの人は自由を望んでいるし、無自覚であってもその方が幸福になれると考える。

 そして、その恐怖社会を強いる圧政を支えるものとして二つ指摘する。一つには、独裁者が意図的に外に「敵」を作り出すことによって国民の目を外に向けさせ、団結を維持すること。これは「反米」や「反日」のように自由社会にとっての脅威となる。二つ目に、先進国が「民主主義より安定が大事」という考えや、交渉のしやすさという点から独裁者を存続させようとすることによっても圧政は支えられている。しかし、独裁者は体制の維持や私財の蓄積などの自己利益にしか興味がないため、いくら先進国が融和や改革を進めようとしても、そもそも独裁者は和平を進める気がない。そのため「独裁者の下で平和はない」とされる。

 以上の分析から自由社会が採るべき策が導き出される。それは端的に言えば、「人権派」と「タカ派」の結合だ。つまり、全世界を自由社会にすることなしに平和や安定はないとの考えの下、相手国の自由化・民主化の程度やそれらへの改革の前進に応じた経済・軍事面での外交(リンケージ政策)を主張する。

 これらの主張を、前半では理論的に、後半ではパレスチナ問題の歴史を辿りながら述べている。
 
 
 ユダヤ人である筆者は、ソ連でイスラエルへの移住を求める運動を行い、強制収容所に入れられたこともある。イスラエルに移り住んでからは政党を立ち上げ、ネタニヤフ、バラク、シャロン政権では閣僚として活動した。そのため、親ユダヤ・イスラエルのバイアスがかかっている(と思われる)記述が随所に見られる。

 また、本書の中では軍事力の行使が自然のことのように述べられていて、それを正当化する詳細な分析や論理が述べられていない。ただ、この点はイラク戦争当事話題になったロバート・ケーガン著『ネオコンの論理』(光文社)が理論的な基礎を提供してくれているように思う。両著を併せることでネオコンの「人権派」と「タカ派」の両面での認識がよりよく理解できる。
 
 
 さて、彼らネオコンをいかに批判するべきか?

 宮台真司は[解説]で、イラクを攻めて中国を攻めない恣意性や国際世論などの文脈への鈍感さ等を批判している。

 この2点はごもっともだ。特に、後者はイラク攻撃で中心的役割を担ったアメリカ・イギリス・スペインへの国内でのテロに見られるように、見逃すことのできない重大な欠陥だ。そこまでして武力による自由化・民主化を行うべきなのか? 世界を自由社会にするという理念には賛同するが、やはり手段や戦略については再考の余地がある。軍事力を使わずにソフトにリンケージ政策を取り入れる以外に名案もないが、自国内の国民の生活や安全を守るという点からすれば、安易に強硬なネオコン路線に関与すべきではない。テロの時代に重要なのは予防外交だ。予防外交以外にはあり得ない。

 もう一つ、本書の欠点を批判しておこう。それは、自由と民主主義をかなり混同していることだ。本書の中で自由と民主主義は(一部自覚的に論じられてはいるが)ほぼ入れ替え可能な同時発生的なものとして出てくる。しかし、イラクを見れば分かるように、民主主義体制にはなっても自由や人権の概念が欠如する可能性は十分にある。両者が同時に生まれないことには安全な自由社会にはならない。自由・人権をいかに拡大・保障・定着させるか(あるいは、させるべきなのか)は、本書の枠を超えた別の種類の重要な問題だと思われる。

 しかし、いくつもの問題を抱えてはいるものの、筆者シャランスキーの外交センスは鋭く、洞察は論理的で、本書は非常におもしろく勉強になった。外交が必要ないからか外交に弱いと言われる日本人にはありがたい本だ。それにしても、日本には「首相の主張を支える本」の類がほとんど登場しなくて寂しい。

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