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 星野英一 『民法のすすめ(岩波新書、1998年)
 
 
 集中的に新書を撃破する【新書週間】の2冊目。
 
 
 「市民社会」に関する文献などでしばしば推薦されている本。

 もともと民法に関心を持っている人向けの入門書ではなく、民法に関心を持っていない人向けの民法の入門書である。

 したがって、いきなり民法の中身に入って、民法の内で自己完結するのではなく、民法と社会(歴史も含む)との関係というより広い視点から民法を捉え、紹介している。

 その方法として著者は、法律を3つの要素に分ける。すなわち、(1)目的・理念・思想、(2)その適用される社会の実情、(3)その目的を法律によって実現するための言葉の技術、の3つである。

 (1)には「第二章 生活規範としての民法」「第六章 民法の理念」「第七章 民法と人間」が、(2)には「第三章 民法と市場経済」「第四章 民法と市民社会」が、(3)には「第五章 民法の技術」が、それぞれ対応している。なお、他にも、「第八章 日本民法典」「第九章 民法の将来」がある。

 これらを見ると対象がかなりの広範に渡っていることが分かるが、これは著者による以下のような民法の捉え方から当然に導かれる帰結である。

人民相互間の平等の、思想的な根拠でなく、国家法上の根拠はどこにあるのかといえば、それはまさに民法にある。 (p3)

民法が、今日において誰でも認めている、人と人の平等、人の自由などの社会の基本原理を定めている法律である (p3)

 
 
 果たして、社会や歴史の中に民法を位置付けるという非常に興味深い著者の壮大な目的がどこまで達成できているかに関しては、各項目ごとに個別に評価する必要がある。

 例えば、市民社会に関して、ヘーゲル、マルクス、ハーバーマスといった思想家たちによる「市民社会」概念史を簡潔に整理し、市場とも国家とも異なる公的領域として市民社会を捉えるという現代的な理解を示し、それを前提に民法を位置付けるという試みは、(やや単純な結合にすぎないという嫌いはあるが)大枠においては成功しているように思える。他にも、民法が想定する人間像に関して、「強く賢い人間から弱く愚かな人間へ」や、「抽象的な人間から、社会的・経済的立場の差異に応じて扱いの違いが認められれる具体的な人間へ」など、非常に説得的でおもしろく、かつ有益な理解を析出している。

 他方、「民法と市場経済」との関係に関して検討した第三章は、市場や経済に関するあまりに簡単な解釈から「市場経済は法的枠組みを前提とする」というありきたりな結論に至っていて、おもしろさもなく、評価もできない。

 しかし、いずれにしても、法律を理解・解釈するには、その前提となる(広義での)「社会」についての理解が必要不可欠である。これは、法律の理解・解釈における共通基盤や共通の指針を形成するのに寄与する。もしこれがないと、学者などの個々人が勝手気ままに理解・解釈することになり、法律の体系性や安定性や予見可能性が損なわれることになりかねない。その点、法律の理解・解釈のために市民社会や市場経済に関する一定の理解を示した著者の試みは有益だと言える。(法哲学や政治哲学も共通の前提を提供するという同様の機能を果たしている。)
 
 
 ところで、この本の“全体的な評価”に関して、確かに、市民社会のところでも市場経済のところでも見られたように、「単純さ」が欠点ではある。が、扱う問題や目的が大きいだけに、個別具体的なところでの精緻さの欠如はやむを得ないと言わざるを得ないのかもしれない。

 しかし、同じような問題意識や目的を有した類書に当たったことがないため、この本の全体としての相対的な出来は判断しかねる。(逆に言えば、全体的な評価に関して、少なくとも“絶対的に”素晴らしい出来だとまでは言いがたいということである。)
 
 
 そんなわけで、この本は、少なくとも試みとしてはとてもおもしろく、有益な本である。そして、全体的な評価は簡単にはできないが、個々の内容においてはとても興味深い指摘がいくつも見られる本である。

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